2014年12月26日金曜日

本年もありがとうございました。

 今年も、無事に暮れますね。

 この記事は、通算102番目の記事になるのですが、今までに2回、『今週はお休みさせてください』とポストしたことがあります。となると、今回は、2014年最後の記事であると同時に、実質100番目の記事にあたります。
 チェックしてくださっている方々、たまたまここにたどり着いた方、読んでいただいていることはとても励みに成ります。本当に、ありがとうございます。

 そもそもは、『これから大学院に入ろうかな?と思っている学生さんたちに自分たちの存在をアピールしたい』というシタゴコロ満々で始めたブログですが、大学生に読んでいただけているかは、結構疑問・・・笑。
 実は、学会とか、研究会とか、同年代同業者が集まる会合に行くと、『読んでますよ』と云っていただくことが多く、嬉しいやら、恥ずかしいやら、当初のターゲット層から外れていることを自覚するやら…。ですが、おかげさまで、書く方も結構楽しんで書いています。これからも、お時間のあるときにおつきあいいただければ幸いです。

 去年の最後の記事、『2013年を振り返って』に、2014年は、漢字でいえば『拡』で『充』な年にしたいなぁ、と書きましたが、実感として、今年は仕事も進展し た上に、いろいろな方とのつながりを築くことができた、とてもよい年でした。
 犬も歩けば棒に当たる、といいますが、心がけていろいろな場に出て行くことで、研究室でコツコツ実験するだけではなかなか得られないヒントを得たり、強力な共同研究者に出会ったり。
 そして、この方々のおかげで、当グループがこれから研究して行くために必要不可欠な基盤が整いつつあります。
 研究の拡充は、今年限りで終わるものではなく、研究に携わっている限り常に常に続けるものですが、とにもかくにも、そのサイクルに入った実感が得られるというのは、大変ありがたいものです。

 とはいえ、結局今年の日付で赤潮バナシ論文をだすことができなかったのは痛恨。来年早い時期には日の目を見ることができますように。
 
 来年の目標は……『拡充』の重要なステップとして、ぜひとも新しい仲間が欲しいなあ。その辺についても愉しく頭を絞りながら、ポジティブスパイラルでぐるぐる回りながら上昇して行こう!と、気持ちの明るい年の暮れです。

 というわけで、本年もありがとうございました。来年も、どうぞよろしくお願いします。

((新年第一金曜日は、お休みさせていただきます。どうぞよいお年をお迎えください))
 
 

2014年12月19日金曜日

さらに急ピッチ

 12月は、やはり慌ただしい。
 実験もですが、出張が3件あり、何かと気ぜわしい師走です。
 と、自分自身の気ぜわしさと同期するかのように、新棟の建築も急ピッチで進んでいます。



 先週は、建物の1階壁部分にコンクリートが流し込まれました。すごく『建造物』な雰囲気になって参りました!
 更地になってからの進行がとても早く、もっと前から経時的に写真を撮っておかなかったことが悔やまれます。それにしても、これならば確かに3月半ばには完成しそう。

 たてているのは人間なわけで、建築業者さんたちのご苦労が忍ばれますが、素人としては、まるで大きな生き物が育って行くのを見て行くような楽しみがあります。毎朝、実験室の鍵をあけると、最初に窓から進行を見るのが楽しみです。

 

2014年12月12日金曜日

『赤潮会議』

 先日参加したNZ開催の学会で紹介していただいた会議に出席させていただきました。
 これは、日本の赤潮を継続してモニタリングしている団体の研究報告会で、全国各地から出席した研究者が、過去一年間の赤潮発生状況に関する情報を交換し、さらに赤潮に関する研究の進捗を報告するという会議です。
 赤潮の研究をしている大学関係者も多く出席する会議で、先日のNZ学会でお知り合いになった方々とも愉しい再会ができました。

 それにしても、これだけ多くの研究者が日本の多くの地点でモニターしていること、そして、その結果整理・蓄積されている発生状況、被害状況、毒性評価、気温水温栄養塩濃度その他の環境データに驚きました。実験室での分子生物学的なちまちました手仕事をしている私は、この手の話(といっても、この手の話が一番重要かつ花形だったりするのですが)を聞くたびに驚きを覚えてしまいます。まだまだ素人です。

 という、いかにも『会議』的だったのは1日目。2日目は、特に選ばれた研究者の研究発表でした。こちらは、研究者としてはよく知っている学会発表的な雰囲気でした。
 面白かったのは、韓国で発生した赤潮原因藻が、潮の流れに乗って、日本海を隔てて向かいの鳥取・島根辺りに漂流してきて、そのあたりでまた赤潮を形成しているのではないか、という話。海はつながっている訳で、また、海にしきりは無い訳で、しかし、モニタリングは各国で別々にしている。というわけで、これから、合同でモニタリングしなくちゃね、というような話が韓国からの出席者からでていました。

 発表会の最後は、今年度で退職される某研究所所属の研究者の発表でした。長らく…32年間!…赤潮の生態系における振る舞いの研究をなさっていた方なのですが、今回のお話は最近2年間の仕事のまとめ、とのことで、赤潮原因藻に寄生する生物の話。寄生生物、と一言にいっても、非常に多様性に富んでおり、まずは、その存在に気づき、その生物を同定し、生活環を明らかにし…という研究は、幅広い知識に裏付けられた確かな観察眼、顕微鏡各種を使いこなす技術、そしてなによりも粘り強く実験を続けることが不可欠です。『造詣が深い』という表現がありますが、こういう方のことをいうのだな、と思いました。
 仕事の質といい、量といい、素晴らしいものでしたが、なによりも、この研究所に勤務する研究者は、特に夏期は、つねにあちこちで発生する赤潮のモニタリングという喫緊事に追いまくられていることを知っていると、どうやってその時間をひねり出したのだろう、どうやってその熱意を続かせるのだろう、ということ自体に驚嘆します。

 自分って、うすっぺらい……。と、つくづく反省するのは、こういう発表を聞かせていただいたときです。分子生物学のありがたい点は、『遺伝子』にたどり着いたら後は皆同じ、という点ですが、しかし、遺伝子が生物を生物たらしめているわけで、その生物の面白さを丸ごと理解していないと、本当に面白いところを取りこぼしてしまう。

 と反省している一方で、今回の会でお会いした別の研究者からいただいた言葉。
『とにかく、毎年最低2報、仕事をまとめて発表しなさい。それが10年続けば皆があなたを知ってくれる。20年続ければ、押しも押されぬ世界のトップや。』
 私も、この分野で研究できたとして、あとぎりぎり20年。いろいろな意味で発奮させていただいた会議でした。

 

 


 
 
 

2014年12月5日金曜日

ひええ、な論文

 お昼ご飯を食べながら、ふらふらとネット上をさまよっていてこんなものを見つけました。

Algal virus found in humans, slows brain activity

 クロレラに感染するATCV-1というウイルスがいるのですが、なぜかこのクロレラとウイルスが、人体から見つかることが知られていたのだそうです。例えば法医学的なサンプルなどから見つかる場合は、当然、死亡後に侵入したものを見ている可能性もあると考えられてきたのですが、最近、健康な人間からも見つかることがわかりました。ボルチモアで行われた研究では、92人の被験者のうち43%が保有していたとのこと(咽喉部からのサンプル)。ここまではよいのですが、ウイルスを保有している被験者群は、視覚情報の認知能力をテストすると、保有していない被験者群のスコアに比べて10%程度スコアが低かったとのことなのです。

 ここまでだと、本当にATCV-1が認知能力と直接関係しているかは?なわけですが、ここでマウスを用いた実験の結果が。ウイルス感染していないクロレラと、ATCV-1感染させたクロレラをマウスに経口投与して、迷路を用いたテストをしたところ、感染クロレラを投与されたマウスは、非感染クロレラを投与されたマウスよりも、迷路を脱出するのに10%程度時間がかかり、しかも、新しい物体を与えられたときに、その物体に興味を示す時間(長いほど注意力が高いとされているようです)が20%程度短くなったとのこと。
 これらの活動は、マウスの海馬が司るとされていますが、海馬における遺伝子発現パターンを比較したところATCV-1の有無で1300程度の遺伝子発現が変動しており、その中には、神経伝達物質とレセプター遺伝子の変動に加えて、免疫関連遺伝子が変動していたとのこと。この研究を行った人たちは、マウスの脳内にウイルスを検出はしなかったのですが、マウス体内に侵入していたATCV-1が、免疫系により認識され、その結果、認知に関係する遺伝子発現を変動させたのかもしれない、と考えているとのことです。

 とはいえ、例えば、先ほどの人の被験者でATCV-1のキャリアーとわかった人の血中にはATCV-1と反応する抗体は検出されなかったとのこと。しかしながら、例えば非常に低レベルで感染を維持しているということも今の所否定できないとのこと。

 もしもこのウイルスがヒトの認知能力に影響を与えていたとしても、その影響は大きなものではない、と、この論文を発表したグループは述べているそうです。でも、自分のアタマの回転が10%遅くなるならば、できればかかりたくないなぁ……。

 最近のメタゲノム解析技術の進歩のおかげで、このような『いるとは誰も予想しなかった』細菌・ウイルス・その他諸々が、え?と思うようなところから検出された、という話をよく聞くようになりました。いわゆる菌叢解析によって、たとえば自閉症と腸内細菌叢パターンに強い相関が見られることがわかったり。これぞ技術の進歩によって拓かれた新研究分野なわけですが、この論文については、個人的に、どきり。

 というのも、私たちが興味を持っているウイルス、じつはこの、ATCV-1とかなり近い種類なんです。
 実験・培養維持にも廃棄にも、所定の手順を経て気をつけているつもりなのですが、今まで、『藻類のウイルスだから』と安心しきっていたところにこういう話を聞くと、ひえ、と思いました。