2013年9月27日金曜日

海の水はなぜ青い?

今週は、赤潮で赤くなった海の水が、なぜ青く戻るか。つまり、なぜ赤潮が消滅するか?について。

 海が茶褐色に見えるほど増えて赤潮になってしまうヘテロシグマですが、その消滅も早く、数日で、海水が普通の色に戻るのだそうです。
 この仕事に手を付けるまでは、増えすぎたプランクトンが、海水の中の栄養を使い切って、それ以上生存できなくて死んで溶けてしまうのだろうと、漠然と想像していました。

 ところが、実は赤潮消滅の主原因はウイルス感染なのです。

 海水中のヘテロシグマの数がなぜだかぐんと増えて赤潮になるわけですが、まるでそれを追いかけるように、海水中にいるヘテロシグマに感染するウイルスの数もぐん、とふえるのです。このウイルスは、ヘテロシグマに感染すると、ヘテロシグマを殺してしまうことが知られてきました。このウイルスの数は、ヘテロシグマの数がピークに達するのに遅れること数日、やはりピークに達します。で、感染が進み、ヘテロシグマを殺藻して、赤かったヘテロシグマは海水に溶けて・・・・・海は青く戻るというわけなのです。これ、日本の研究グループが明らかにしたことなんですよ。

 ヘテロシグマを殺してくれるウイルス。
 赤潮嫌いの人間にとっては助けてくれる存在ですが、これらのウイルスは、宿主であるヘテロシグマを殺してしまうと、自分は海水の中にほおりだされます。で、一度海水中に解放されてしまったウイルスは、実はそれほど長いこと感染性を保っていられるわけではないのだそうです。
 せいぜい4~5日間は、再びヘテロシグマに出会えば、もう一度感染することができるのですが、それ以上は無理。

 となると、疑問が浮かびます。

 今年最後の赤潮を見事せん滅したウイルスたちは、どうやって来年の夏、もう一度あらわれるのでしょう?
 考えてみたら、疑問ですよね。
 実は、ウイルスは海底の泥に混じっている間は安定だ、とか、ひょっとしたら、これまでに知られていない生物に感染することができて、その体内にじっと潜んで冬を越すんだ、とかいう説はあるのですが、誰も証明した人がいない。

 ・・・・・・なのですが、ウイルスの冬季サバイバル法の謎を解く手がかりのひとつを、私たち、最近見つけたようです。
 というわけで、赤潮の発生と消滅の謎を合わせて解く日は近い?    ←大きく出てみました。
 
 この研究室を立ち上げて2年。ヘテロシグマという新しい生物を使い始めて、薄暗がりで手探り状態だったのが、ここ3週間ぐらいで急に焦点が定まってまいりました。

 そろそろ、こうこなくては。
 
 

2013年9月20日金曜日

(ひさしぶりに)本業バナシ 赤潮はなぜ起こる?

 読み返してみると、どうも、ここ2ヶ月ぐらいの記事は、「研究者あれこれ」的な話ばかりですね。どこに行って誰と会ったとか、どんな話をしたとか。
 夏は、学会なども多く、人と会う季節ではあるのですが、別にほっつき歩き回っていたばかりではなくて、その間に研究も進めております。大学という場所での非営利目的の研究とはいえ、新規性の高い研究を行っている以上、あんまりリアルタイムに細かいところまで書くわけにはいかないので、日々の実験についてここに書き込めないのが、苦しいところではあります。

 というわけで、久しぶりに、研究そのものの話。
 
 
 
 ヘテロシグマは、鞭毛を持つ単細胞藻で、長径10ミクロンぐらい。海中をふるふる泳ぎながら光合成で必要なエネルギーを作り出して生きています。赤潮、の名のとおり、細胞は褐色をしていますが、これはカロチノイドのせい。葉緑体を持っていて、いわば要領体を保護する成分として橙色のカロチンを持っているので、緑ではなくて、褐色に見えるんですね。
 いつもは、海水中に存在する様々なプランクトンのほんの一部を占めるに過ぎないのですが、水温が上がったり、汽水域で塩強度が変化したり、海域が汚染されて富栄養化が進んだり・・・・・・いくつかの条件が重なると、いきなり大増殖。普段は青い水がいきなり茶色くなるぐらいまで一気に増殖して、これがヘテロシグマ赤潮として観察されるわけです。

 顕微鏡で視認可能なヘテロシグマが、航空写真でばっちり見えるぐらいの集合体を自然界で形成するわけで、考えてみればこれってすごい話です。

 野生のヘテロシグマ(って、変ですが)は、海で生きているわけで、当然、日々温度も変化するし、波も立つし、捕食者だっているでしょう。そういう状態で、数日のうちに1000倍程度にまで増える!・・・・・・・・だったら、ヘテロシグマを実験室に持ってきて、捕食者も波もなく、栄養を充分与えて大切に飼ってやれば、そのぐらいの増殖が観察される、はず。

 
 なのですが、面白いことに、実験室でかっても、ヘテロシグマはそこまで増えない。例えば温度を上げてみたり、栄養塩を添加してみたり、光の強度を変えてみたり、ここ20年ぐらいの間にいろんなことがやられているのですが、しかし、一晩に7,8倍まで増えたりする『赤潮形成期』に見られるような増殖は、実験室では再現されていないのです。

 実験室で再現できない、というのは、逆に言えば、赤潮発生の『決定的要因』は、わかっていないわけです。なにか、私たちが思っても見ないような理由で、赤潮が発生する。
 しかも、ヘテロシグマ赤潮の場合、とってきたサンプルを顕微鏡観察すると、ほとんどがヘテロシグマなのだそうです。特に光合成をする藻類だったら、例えば温度を上げてみたり、栄養塩を添加してみたり、光の強度を変えてみたり・・・・・といった条件にいたら、同じ速さで、とは行かなくても、やっぱり多少増えるのは早くなりそう。だったら、取ってきた赤潮の、たとえば20%ぐらいほかの藻類が混じっていてもよさそうなのに、何でヘテロシグマばっかり増えるんだ?逆に、ヘテロシグマもいる海域なのに、ヘテロシグマはさておいて他の珪藻などがどっと増えることもあるのだそうで。
 これって、ヘテロシグマにピンポイントで効いて、しかし他の藻には効き目がない、何かしらの『誘導因子』がある、ということ、のように思えます。同時に、ヘテロシグマが、他の藻類を排除する因子を放出している、ということは実証されています。アレロパシーっていうやつですね。とはいえ、やっぱり、どうやったら増え始めるのかは謎のまま。

 赤潮って、瀬戸内海のいくつかの海域では、夏の間に3回ぐらいは発生する、きわめてフツーに見られる『ありがたくない夏の風物詩』、なわけですが、それだけみんなが知っている割に、発生の原因は未だ謎のまま。・・・・・・・これって、なかなかそそってくれるトピックですよね。

 そして、私たち、実は最近この増殖の理由の一端、それも結構重要な一端を見つけてしまった気がしています。うっふっふ。
 というわけで、これからしばらく取り組む研究のひとつは、これ。
 『赤潮発生』の謎を解く、です。
 

2013年9月13日金曜日

Power of SNS

 SNS=Sorcial Network Service. ことにFaceBookは、付き合いを保っていた友人と頻繁にコミュニケーションが持てたり、思いもかけない人と再会したり、いろいろ楽しい思いをさせてもらったのですが、ここしばらく仕事関係で使ってみて驚いたのはTwitter。

 先週の記事に書いた、次世代シーケンスについて。ヘテロシグマの遺伝子配列をがさっと読んでもらい、データのいわば一次解析はその道のプロにお願いしました。で、帰ってきた遺伝子配列の山を、更に自分で解析してみています。

とはいえ、データはテキストにして、なんと7000ページ・・・・・・。情けないことながら、どうやって扱っていいのか、初めてのことで困ってしまいました。

で、Twitterで「こうこうこういう解析をして、今はこういう状態。ここからどうしたらいいのかわからない」と『つぶやいて』みたんですね。自分としては、ぼそっと愚痴っただけのつもりだったのですが。
 それを仕事つながりの知人がRetweetしてくださって、それを見た彼のFollowerから『こうすればいいよ、ああすればいいよ』との提案が。あったこともない人からこんな風にアドバイスいただけるなんて、すごい!と感激しました。

 で、先週の研究会に出席したのですが。
 この研究会を組織しているのは、非常に新しい技術である、この次世代シーケンス技術を日本で牽引している人たちです。年齢層が若くて、IT周辺を使いこなしている人たち。彼らにとっては当たり前の発想なのでしょうが、研究会でポスター発表するときには、ポスターの端っこに、顔写真とともにTwitterのアイコンを入れよう、ということに。これ、よかったです。あとで何人かあらたにFollowすることにしました。

 さらに、ハッシュタグ。
 これまでほとんど使ったことなかったのですが、この研究会のためのハッシュタグは#NGSfield。で、この技術関連で聞きたいことがあったら、Twitterでこのハッシュタグをつけてぽそっと一言つぶやくと、答えてくれる人がいるんですね、これが。
 IT好きの人って、その技術関連の質問には、とても丁寧に答えてくれる人が多い気がします。
 情報収集にインターネット検索は常識中の常識ですが、こういう使い方もあったんだ!と目からうろこの気分でした。

 実は、私はTwitterのアカウントは持っていて、でもずっと使っていなかったんです。利用再開のきっかけは、実はこのブログ。私は、このブログの『管理者』としてアクセス数を見ることができるのですが、ある時びっくりするほどカウントが増えていました。
 どこを経由して入ってきたのか、を見るとサイトのアドレスにt.coとある。
 仕事つながりの知人が、このブログを読んで紹介してくださって、そのツイートからこちらを見に来てもらうことでアクセス数が増えたんですね。これがきっかけで、じゃ、私も時々つかおうかな、と利用再開。
 米国にいた時に、人気のホットドッグやバーガーのスタンドが、場所を変わるたびにツイートして顧客にどこにいるかを知らせる、という話を聞いて、「ははぁ、そういう使い方があったか・・・・・」と感心していたのですが、自分が仕事で便利さを知ることになるとは思いもしませんでした。

2013年9月6日金曜日

おもしろいいきものたち

 今週水曜日と木曜日は、神戸で開かれたNGS現場の会という研究会に出席してまいりました。
 NGS=Next Generation Sequencing、つまり次世代シーケンス技術を用いる仕事をしている人たちのための研究会です。
 遺伝子配列解読技術は、ここ数年信じられないほど進歩しました。
 つい最近まで、「ゲノムプロジェクト」っていう言葉を聞きましたよね。ヒトゲノムプロジェクト、とか。これは、つまり、ヒトのゲノム=遺伝子配列を解読しよう!というプロジェクト。欧米豪日多くの国が参加して、多額の資金と当時で最先端の技術を投入し、さらに数え切れないほどの優れた人材が参加しての国際プロジェクトとして運営され、長い年月をつかってやっとのことでヒトの全遺伝子配列が解読されたわけです。
 ところが、今では、一台の機械と(とはいえ、高いものでは一台一億円ぐらいするらしいですが)、二人ぐらいの熟練した技術者、そして一人の優れた情報処理専門家がいれば、一人の人間の遺伝子ぐらいなら、数週間もあれば解読できてしまう。
 以前と今のこの差は、つまり『次世代シーケンス技術』で可能になったわけです。
 次世代、といいながら、すっかり現世代の技術になってしまったこの技術の可能な応用方法・情報を仕入れたいときの情報源、どんな機器を使ってどのような点に注意して研究計画を立てればいいか、技術開発はどんな方向に進んでいるか・・・・ということについて、知識を仕入れようと思ったら、一番早いのはよく知っている人々に教わること。わたしにとっては、とても有益な2日間でした。

 情報を仕入れる、という、大きな目標にくわえて、学会の楽しみは、『知らない人にあって話をする』ことです。自分が考えたこともないことを考え、目からうろこなアプローチで生物の研究をしている人たちの話を聞くのは、単純に、たのしい。

 NGSをつかえば、けっこうな長さの遺伝子配列を少人数である程度の資金(せいぜい200万円ぐらい?)があれば解読できるわけですが、これは裏を返せば、今までに遺伝子配列が知られていない生物に目をつけて、その遺伝子を読むことによって、他の誰も研究していない生物の分子生物学的研究を行うことが可能になったわけです。
 わたしの『ヘテロシグマプロジェクト』も、NGSのおかげではじめようとおもいついたわけですが、この会に出てみると、いるわいるわ、チョウの『行動』決定因子についての研究、昆虫の擬態について、生育環境で形が変わる両生類、イカはなぜ頭がいいか(学習能力があるのか)、食虫植物の捕食戦略、ほかにも、コケ、アユ、ウナギ、アブラムシ、カラス・・・・・・・。

 これまでは、遺伝子配列が知られている大腸菌だの酵母だのマウスだのシロイヌナズナだの、という限られた種類の生物が研究の材料としてつかわれてきたのですが、考えてみれば、「おもしろいいきもの」は、そこいら中に、いっぱいいますよね。『教科書に載っている実験材料生物』だけを使い続ける理由は、NGSのおかげでなくなりつつあるわけです。

 こういう話は、学会会場で伺うのも楽しいのですが、懇親会とそのあとの2次会でざっくばらんにおしゃべりをするのが一番です。というわけで、「夜の部」もしっかり楽しんだ『研究会』でした。