2013年1月25日金曜日

1月25日 ウイルスとは?さらに、私たちの研究について



では、研究の話。先週の「さて、ウイルスとは・・・・」に続きます。

 ウイルス、というと、日常生活の中ではエイズウイルス、インフルエンザウイルス等、「人の病原菌」というとらえ方をする機会が多いことと思います。実は、ありとあらゆる生物―――動物だけでなく、大腸菌、カビ、植物、酵母その他ものもろの、生きとし生けるもの―――には、違う種類のウイルスが感染することが知られています。「生物」は、一般的に細胞――固有の遺伝子を持ち、自分の生存に必要な様々な物質を合成する能力や増殖する能力を持つ最小単位――からなります。これに対して、ウイルスは、自分を複製するための遺伝子は持っていますが、自分の生存に必要な物質の合成能力や、増殖能力はもっていません。つまり、増殖や必要物質合成のための設計図(遺伝子)は持ち歩いているけれど、そのための道具(大工道具?)は、まったく持っていない。かわりに、ウイルスは、感染した生物の細胞(宿主)の細胞因子(よその家の大工道具)を利用します。
 ウイルスは感染して宿主細胞に入り込み、宿主細胞が本来ならば自身の生存のために使っているさまざまなしくみを、乗っ取る形で利用するという、非常に巧妙な手口で増殖する『不完全生命体』なのです。

増殖しようとすると、かならず自分とは似ても似つかない宿主細胞に侵入して感染を確立し、宿主細胞を乗っ取る、という過程を経なければならない、これがウイルスの大変面白いところです。たとえば、インフルエンザウイルスが入った水溶液をテーブルの上にこぼしておいても、ウイルスは増殖しない。でも、これが知らないうちに私の手について、私がうっかりその手を洗わずにお昼ご飯のサンドウィッチをつかんで食べちゃって、あらら、ヒト細胞に感染成立、と相成れば、私の体内で見事に増殖して次の週に私めはインフルエンザ発症・・・・、と相成るわけです。
つまり、ウイルスは、宿主細胞に侵入して、細胞が持っているいろいろな機能を「自分のために」利用して増殖し、その増殖が宿主に影響を与えて感染の『症状』を引き起こすわけです。

ウイルスが利用する宿主内の機能分子は、宿主がもともと持っているものです。当然、ウイルスが感染していない健康な細胞の中では、細胞自身のための機能を果たしているわけで、宿主が自分のために作り上げてきたはずの細胞機能をウイルスがどう乗っ取るか、あるいは、乗っ取られてウイルスのために働く細胞の中の機能分子が、そもそもは宿主にとってどのように重要な役割を果たしているか、というのは、大変面白いトピックで、そこに私は関心を持っているのです。
 一口に「宿主とウイルスの関係の研究」といっても、アプローチにはいろいろあります。例えば、いろいろな生物について、「この種類にはこのウイルスは感染する、こっちにはしない・・・」というのを決定し続ける、というのも研究の一つですし、あるいはウイルスの感染を防止する目的で行われる研究もありますね。
私が関心を持っているのは、ある一種類のウイルスが、ある種の植物プランクトン細胞(宿主)に感染する際に、どのようなタンパク質が宿主細胞内で作られ、どのような細胞内シグナル伝達を経て、最終的にウイルスが細胞を殺してしまうか・・・・というような、その過程に関わっている分子とその機能を特定するタイプの研究=分子細胞生物学的研究です。

 で、このようなトピックを追うために私が使っている手法は、たとえばウイルスの精製や遺伝子の単離・同定、例えば宿主の遺伝子配列の解読、タンパク質変異導入・発現などなど。
 重要なのは、相手が遺伝子、という分子であるかぎり、その遺伝子の由来が植物であろうがウイルスであろうがプランクトンであろうがマウスであろうが、「遺伝子という分子をいじる手法」はほとんど同じ、ということ。

 これが、分子生物学のありがたい、そして、美しいところです。

 つまり、私が以前は植物とウイルスの関係を研究するために用いていた手法は、そっくりそのまま、プランクトンとウイルスの関係を研究するために使えてしまうわけで、生物種の組み合わせこそ違えど、結局は、今まで積んできた経験に基づいて、新しい切り口の研究を始めたといえます。
 というわけで、今日はこれにて。

2013年1月18日金曜日

1月18日 自己紹介



さて、自己紹介的記述が続きます。
 そもそも、岡山大学資源植物科学研究所って、なにさ??と思われる方は、こちらをチェックしてみてください。
倉敷美観地区の街並み。目抜き通りから1本入った通りが特に素
敵だと思います。
平たい言い方をしてみれば、この研究所は岡山大学の一部で、倉敷にある飛び地キャンパス。様々な植物についての生物学的・農学的研究を行っている、『大学附置研究所』です。

 植物と一口に言ってもいろいろありますが、当研究所が力を入れているのは、大麦とイネ。観光地である倉敷美観地区の近くというロケーションから考えて、贅沢な面積の実験圃場を有しています。他にも、植物の研究を行うための「実験モデル」として用いられてきたシロイヌナズナやタバコをもちいた研究もおこなわれています。異なる研究テーマを追う15の研究グループに分かれており、それぞれが関心のある植物(作物)でおこっている関心のある現象について、分子レベルで研究を行っております。もちろん、岡大大学院に所属する学生さんたちもここで日々研究をしています。植物・作物というキーワードから想像が可能なように、岡大の中でも農学部と交流が盛んです。岡山駅から徒歩20分のところにあるメインの津島キャンパスからは隔絶されており、資源研には大学キャンパスの雰囲気は全く、と言っていいほどありませんが、その代わり、教官一人当たりが一緒に研究している学生さんの数は非常に少なく、マンツーマン(あるいはそれよりも濃い?!)研究指導を受けられるというのは非常に大きな魅力と思います。
研究棟2階から見た実験圃場。
・・・・・・・研究所を正面・外側からとった写真が手元にないことに、今気が付きました!そのうちとってお見せします。

 で、私は、このうちの一つである「萌芽的・学際的新展開グループ」の、現在のところは唯一の専任教官です。主に手を染めているのは、とある植物プランクトンとそのウイルスについての研究です。そう、植物にも、そして、植物プランクトンにも(!)感染するウイルスはいるんですよ。案外知られていない事実ですが、人類が最初にウイルスという存在を見出したのは、植物から。タバコモザイクウイルスが、人類が発見した最初のウイルスなんです。で、今まで、私はシロイヌナズナやタバコに感染する植物ウイルスの感染過程について分子レベルで研究をしてきたのですが(詳しくはこちら)、現在では新しい宿主(ある特定のウイルスが感染する生物種、私の研究の場合には『とある植物プランクトン』)とウイルスの関係に方向転換を試みています。
さて、ウイルスとは・・・・・・と書き始めると長くなるので、また来週。

2013年1月11日金曜日

1月11日 はじめまして



はじめまして。岡山大学資源植物科学研究所 萌芽的・学際的新展開グループ(の助教)です。このブログは、当グループの活動を定期的に紹介するために開きました。
そもそも、このグループ(萌芽G)は、20119月に開かれた新しい研究グループで、私が唯一の専任教官。グループ名が示すように、このグループの研究テーマは、着想・テーマ・アプローチが新しいことを!!という以外の縛りがありません。今後新しく発展していける研究の方向を模索しながら、植物分子細胞生物学での「新天地」を地道に開拓中です。

 地道に開拓中、ということは、いまだに結果が出ていない(論文として、あるいは学会で発表していない)ということで、私たちが行っている研究のコアな部分について「こんなことやっています!」と書くわけにはいかないのが、ちょっとつまらないのですが。それでも、いわゆる『分子生物学的手法を用いた研究」とはこんなもの、あるいは、大学などの非営利目的の研究をしている研究者の生活ってこんな感じ、ということを面白がっていただけたらと思います。

 もう一つ、このブログを書く理由は、このグループで一緒に働いてくれる人を見つけること。私は、「萌芽的・学際的新展開グループ」の現在のところは唯一の専任教官・唯一のフルタイムメンバーで、他には週に2回、他のグループと掛け持ちで非常勤のHさんが来てくれているという、大変小さいグループなのです。というわけで、このブログで現在学部生、大学院生で、これから今までとは少し変わったことを学んでみたい、という方々の興味を引くことができれば、大変幸せです。今のところは専任が私のみ、ということで、私がやっている実験、私が研究者として経験していること、を一人称単数で書くことが多くなりますが、ゆくゆくは、このブログの主語は一人称複数「私たちは」にしたいと願っております。

 というわけで、目標は毎週金曜日更新。どうぞよろしくお願いします。