2014年6月27日金曜日

間に合った!

 最低限必要な5系統から葉緑体とり終了しました。−80℃のフリーザーに、すべてのサンプルがそろったときの開放感は乾杯に値します!

 そもそもは、葉緑体ゲノムDNAの配列を読みたいから始めた葉緑体精製。

 細胞丸ごと、核もミトコンドリアも葉緑体も含めて総ゲノムを精製して配列を読んでも、当然葉緑体ゲノムの配列を知ることはできるはず。ですが、いまのところ、ヘテロシグマ葉緑体ゲノムの大きさは、核ゲノムの1万分の1ぐらいと見積もっています。ゲノムの分子数としては、十倍から1000倍ぐらいあるらしいのですが…。となると、次世代シーケンス技術を使って総ゲノムを読むことで葉緑体ゲノム全長をきれいにつなげるには、かなりのリード数が必要です。5系統、できれば6系統読もうとすれば、弱小ラボにはあり得ないような莫大な費用がかかってしまう。

 となると、葉緑体だけとってきて、その中からDNAを精製するのが現実的。

 というわけで、まず葉緑体をとって、とれてきたものからDNAを精製する、という操作を繰り返してきた訳です。ヘテロシグマ葉緑体DNA量は、当然といえば当然ですが、ヘテロシグマが持っている総ゲノム量のほんの一部。がんばって大容量の培養で増やしたヘテロシグマを出発材料としても、そこからとってきた葉緑体から精製したDNAは、心細いほど、ほんのぽっちり。エタノール沈殿して、目で見えるか見えないか…。というわけで、一日の実験の終わりに、必死に目を凝らして、エタ沈DNAのありかをチューブの底に探す毎日。
 分子生物学かじったことがある人だったら、誰でも味わったことがある切ない気分満喫です。

 この系統からもう少しDNAがあってもいいな、というものもありはするのですが、とりあえず最低必要量は確保できて、大分気が楽になりました。
 というのも、実は、この実験にはゆるいながらも締め切りがあったんです。

 6月29日、つまり2日後、今度の日曜日。いやはや(笑。
 

2014年6月20日金曜日

3度目の田植えの季節

 今週も葉緑体との格闘は続き……ゴールが見えて参りました。
 葉緑体を無傷でとってくる、という操作は、イメージとしては、葉緑体回収バッファーの中でぴりっと一部分だけ細胞を破いてやると、パラパラッと傷のない丸ごとの葉緑体が細胞の外に出てくる。そして、それを密度勾配遠心にかけて、壊れた細胞核とか、別の細胞内小器官とか、細胞壁・細胞膜のかけらとかにくらべて、密度が重い葉緑体だけとってくる、という操作です。
 現在、私たちがもっているヘテロシグマは6系統。このうち5系統から、それぞれの葉緑体をとってきたい。
 と思っていたけれど、5系統それぞれの細胞壁だか膜だかの強度がかなり違ったため、それぞれについて条件検討。全く壊れなければどうしようもないし、もろい細胞に強い条件を使うと、葉緑体にまで傷がついてしまうのです。
 さらに、密度勾配遠心法による分画のステップで、なんと、葉緑体の密度が系統によって結構違うことに気がついて、密度勾配に用いるパーコール密度を検討して……やっとこさ、葉緑体を3系統からとって来れました。
 あと2系統も何とかなりそうな気分になってきました。こうなったら、土日も使ってもうひと頑張り。やれやれ、ここまで3週間かかりました!

 などと実験室内は牛歩の歩みの毎日ですが、窓の外を眺めれば季節はちゃんと移り変わっています。ほ場は大麦の刈り取りも終わって、田植えの季節。

 この研究所に着任するまで、田んぼが広がっている地域に住んだことがなかったのですが、苗が植わったばかりの田んぼの水面って、空が映るんですね。
 ここにやってきて3度目の梅雨ですが、ちょっと感動します。
 


2014年6月13日金曜日

葉緑体バナシその後

 葉緑体をたくさんとりたい!と条件設定に明け暮れた、という話を2週間前に書きました。

 一番問題だったのは、細胞の壊し方・・・・・ちゃんと壊さないと当然葉緑体は取り出せないし、しかし壊しすぎると、葉緑体にまで傷がつく。
 程よいところで無傷の葉緑体をたくさんとってくる条件を探して四苦八苦した訳です。 で、とりあえず、条件設定終了、めでたしめでたし、と思ったのですが。

 今、私たちの手元には、ヘテロシグマ6系統があります。で、これらすべてから大量の葉緑体をとってこなければならない。この6系統、少しずつウイルス感染に対する反応が違ったり、大きさが違ったり、増殖速度も違う・・・・という、それぞれ固有の『性格』があるのですが、しかし、ヘテロシグマはヘテロシグマ。
 1系統で確立した方法は、ほかの系統でも使えるでしょう。

 と思ったところが、甘かった……。
 系統1で方法を確立し、では、と、系統2でその方法を使ってみたら、何と、細胞がどうしても壊れない!では、系統3では、と試してみたら、系統1で踏んだ手順の半分以下で粉々………。

 こんなにヘテロシグマの『丈夫さ』にちがいがあるとは。

 とはいえ、たぶん、生物ってこういうもので、同じ種でも、系統の違いで思わぬところにはっきりとバリエーションがあったりするのでしょうね。

 一応生物学をながいことやってきて、『するのでしょうね』って、ずいぶん頼りない話ですが、この辺が、『モデル生物』に甘やかされてきた研究者の弱点といえます。
 細胞を壊してしまったら後は同じ扱いができる訳ですから、細胞の壊し方については、1系統ずつじっくり決めていこうと思います。

 6月終わりまでには、しゃきっと終了したいものです。

2014年6月6日金曜日

梅雨入り

 九州は梅雨入りしましたね。

 晴れの国、と言われるだけあって、岡山は確かに梅雨でも雨の日が少ないです。
とはいえ、中国山地にはしっかり降っているものらしく、1級河川3本に恵まれた岡山や倉敷は、水不足になりにくいとのこと。

 という、大変にありがたい立地ではありますが、やはり梅雨時、湿度が高くなります。
 湿度が高くなると空気中のカビや酵母などが多くなり、無菌培養にもこれらが混入する確率が多くなります。というわけで、いわゆる『コンタミ』が問題になるのもこの季節。さいわいなことに、私たちが研究しているヘテロシグマは、独立栄養藻。人工海水という、つまり、糖などのエネルギー源がない培地で光合成をして育つため、ほかの従属栄養細菌などが混入しても育ちにくく、培養はかなり簡単です。
 対して、やはり独立栄養なはずの高等植物ですが、これらは培地に結構な濃度の糖やビタミンを加えます。植物の無菌培養をしている人に言わせると、雨が降った次の日にあけたサンプルは、カビなどが混入する率が高いそう。神経を使う季節です。
 
 培養については毎年の話なのですが、最近、やってみたいと思った実験があり、その方法を用いて研究している方にお便りを差し上げて、いろいろ教えていただきました。すると、お返事に、『これからの季節のように湿度が50%を超える日が続くとてきめんに難しくなります』とあり、あら、そんな落とし穴があったとは。

 今日は、特に雨が降っているのですが、こういう日はなるべく避けた方が良さそうです。

 ところで、梅雨入りしたのに、研究所の圃場はまだ乾いた土のまま。田植えも始まっていません。今年の梅雨入りって、例年よりも早かったのでしょうか・・・・?