2017年4月28日金曜日

行け行け、ヘテロシグマ

 さて、先週書きました、ヘテロシグマの泳ぎ方についての論文です。なんと、天下の(って考え方は極めて軽薄ですが、今回に限ってはこう言っちゃいたい気分)Natureに掲載されておりました。

ヘテロシグマは、泳ぎます。二本の鞭毛を持っていて、ひらひら、というのか、へらへら、というのか、なんとも方向性のない、気ままなふうに泳ぎ回ります(動画を載せようとしたのですが、うまくいかないのが残念)。
 また、ヘテロシグマは光合成を行う藻類であるため、1日の生物学的周期がはっきりしています。夜のうちは、容器の底に沈んでいるのですが、朝になると、あたかも目を覚ましたかのように泳いで水面に浮き上がってきます。で、午後3時ぐらいまでは、結構活発に泳ぎ回るのですが、そのうちにだんだん眠くなるのか(?)底に沈んで、夜間はお休み。
 朝早くラボに行き、まだ照明が点灯していない培養器を開けると、「あ、ごめん、まだ寝てた?」という感じ。
 妙に擬人化しやすいキャラなのですが、彼らも『なんとなく』泳いでるように見えて色々と企んでいるようです。例えば、昼の間は表面近くに、夕方になると底に沈む、というのは、細胞質の密度を、昼間は海水に浮きやすい細胞質の密度に、夜は沈むぐらい重い密度に、と、なんらかの方法で調節していることを見出した論文が何年も前に発表されています。
 なんとなく泳いでいる、どころではありませんね。

 自分で泳げる一方で、環境中に生息してるヘテロシグマは、常に海水の流動に揉まれているわけです。
 強固な細胞壁を持たず、脆いと言われるヘテロシグマですが、そんな彼らはどうやって海水の乱流を生き抜いているのか?というのをとても真面目に観察したのがこの論文。

 やっぱり、ちょっとイグノーブル賞っぽい(笑。

 具体的には、小さな容器にヘテロシグマを封じ込めて、時々その容器を回転させてやり、マイルドに乱流を起こしていやると、ヘテロシグマの泳ぎ方のパターンが明らかに変化する。どうも、必ず上に泳いでいく個体と、下に向かって泳ぐ個体があり、それが常に半分に分かれるそうです。また、上に向かって泳いでいく個体と、下に向かって泳いでいく個体は、乱流に出会ったときにとる細胞の形の変化の仕方がはっきりと違い、しかもそれぞれの群れに一定のパターンが見られます。とはいえ、上に行くのはいつも上に行き、下に行くものはいつも下に行く、というわけではないことから、それぞれの個体は、場合に応じて柔軟に対応している、わけですね。乱流というのはそれほど激しくなくてもヘテロシグマにとってはストレスなようで、封じ込めた容器が回転すると、ストレスを受けた時の反応として知られる一酸化窒素の産生が見られます。ヘテロシグマは、ちょうどジャガイモのメークイーンのような格好をしていて、硬い細胞壁はもたない、フヨフヨした感じの生き物なのですが、細胞の形をちょっと丸っぽくしたり、細長くしたりして、言って見れば細胞の重心を移動させて、乱流に対応するのだそうです。このよう異なる形を取る能力を有するからこそ、脆いヘテロシグマが乱流だらけの海で生き抜いてこれたのでは?とのこと。
 流体力学・生物物理学的な研究で、正直言って、私に完全に理解できているとはいえないので、緩い説明になってすみません。。。。実際の論文は、念入りなリアルタイムイメージングにより、膨大なデータをとって、それらを丁寧に画像解析して、といった研究です。
 プランクトンの泳ぎ方を観察するために特化した観察のための機器を自分たちの手で作って観察し、たぶん、画像解析も自分たちで開発した方法で行ったようではありますが、一方で、お金にあかせて最先端イメージング技術をこれでもかと使った研究か、というと、そうでもない。

 よく、研究者仲間との話題に出てくるのですが、ここ数年、生物学の研究は、大きな予算を使って、人海戦術・潤沢な物資投下により膨大なデータとをり、それをど〜〜だ!!とばかりに見せるようなものばかりが、Nature/Cell/Scienceなどにのっている気がくします。『牛刀をもって絹ごし豆腐を真っ二つ』的アプローチ、といいますか。日本の地方国立大学で細々と研究している身としては、あ、もう、ああいう雑誌には私は一生縁がないのね、きっと......と少々いじっとしてしまうようなトレンドが見られるわけですが、この研究は、ちょっと違うかも。そういう意味でも、嬉しい気分になるおハナシでした。
 
 という論文を読んで、数日後。
 お昼ご飯を食べながら、米国Department of Energy のJoint Genome InstituteのGOLD projectというウェブページをふらふらブラウズしていましたら、本当につい最近、ヘテロシグマの発現遺伝子を網羅的に解析するプロジェクトを始まっていました。ゆくゆくは、これらの情報も公開されるはず。私も、それらをダウンロードして、自分の切り口から解析して見たりできるはずです。
 なんだか、ヘテロシグマに風が吹いてきてるみたいじゃないですか♪強力なライバルが多くなるのは本当かもしれないけれど、それよりなにより、ふるふるおよぐヘテロシグマに着目するメジャーどころあちこちに♪だって、やっぱり面白いよね♪と、勝手に嬉しくなっています。
 

2017年4月21日金曜日

研究所公開と IgNobel (?)

 今年は、5月13日に研究所公開を行います。
 去年は、改築のスケジュールより、本当に暑い時期に、しかも、オリンピックの開会式とバッチリ重ねて!研究所公開をおこなったのですが、今年からは、本来の季節に行います。
 

 今年から担当してくださっている業者さんが、『これって、ファミリー向けの企画なんでしょうか。独身男二人とかで連れ立ってきたらまずいですかねぇ?』といわれたのですが、いえいえ、お子さんからご年配の方まで、たくさんの方々がおいでくださる行事です。是非是非お運びください♪

 ところで。
 このタイトル、失礼かもしれなのですが.......。
でもでも、Heterosigmaの『泳ぎ方』についての研究が、なんとなんとNatureに載っていました!
 どちらかといえば、生物物理学・流体力学っぽい内容というべきでしょうか。

 研究って、いろんなことをネタにできるし、普段見落としていたところに面白い現象があったりするのを見ると嬉しくなるわけですが、おお、わがヘテロシグマにそのようなスポットが当たるとは!面白いと思うのは私だけじゃないのね♪そうよねそうよね♪♪と、嬉しくなってしまいました。
 角度は違うとはいえど、同好の士を見出したようで嬉しいです。
 詳しい内容は来週にでも紹介させていただきます。




2017年4月14日金曜日

研究報告4:ヘテロシグマのミトコンドリア上にある水域特異的配列について

 今回は、2報まとめてご報告させていただきます。先日ご報告した、2日続けて受理された論文たちです。

A hypervariable mitochondrial protein coding sequence associated with geographical origin in a cosmopolitan bloom-forming alga, Heterosigma akashiwo

A unique, highly variable mitochondrial gene with coding capacity of Heterosigma akashiwo, class Raphidophyceae

 これは、以前解読したヘテロシグマのミトコンドリアゲノム全長配列を詳しく解析してみたわかった話です。
 自分たちで解読した4株と、すでにNCBI GenBankに登録されている3株合わせると、日本沿海から得られた株5株、北米から得られた株2株のミトコンドリアゲノムの完全長の情報が得られていました。で、これらそれぞれにコードされている遺伝子を予測してみると、ほぼすべての遺伝子が、同じ配置で存在します。で、それぞれの遺伝子配列を比較してみると、当然ながらよく似ている。。。。のですが、例外的な遺伝子もありました。
 他はほぼ100%一致するのに、なぜかこの遺伝子は非常にバリエーションがある。
 というわけで、この遺伝子は、mitochondrial Open Reading Frame with variationsの意味で、mtORFvarと名付けました。
 バリエーションに富んでいる、とは言いながらも、実際は、北米産ヘテロシグマ2株は非常によく似ている。そして、日本産同士を比較しても、結構よく似ている。
 となると、これは、ヘテロシグマ株が取られた海域と相関している配列だったりして?と思いつき、海外の藻類株を保有しているセンター(過去のヘテロシグマの研究の過程で単離された「株」が世界各地のセンターに寄託されているのです。)から、合計20株近くを入手して、それらのmtORFvar配列を解読して、比較してみました。

 すると、結構綺麗にヘテロシグマ株産海域と配列が対応します。
 たとえば、大西洋北緯40度以上の水域からとれた株と太平洋北緯40度以上の水域からとれた株は、それぞれに固有のmtORFvar配列を持つ。北米の東西海岸でも、北緯北緯40度より低緯度でとれたものを比べてもやはり違う。日本沿海からとれた株のmtORFvar配列と、北米産のものはかなり違う、などなど。
 mtORFvar配列の地域特異性に加えて、たとえば、ある1地点からとれた2株の配列を見たときに、一株は北米東海岸高緯度型、もう一株は北米東海岸低緯度型、という違うタイプが例外的に混じって見られるところもある。つまり、ひょっとしたら、もともとは、実は違う水域に由来しているのが、何らかの原因で長距離輸送されて同じ海域に混じって生息しているのだったりして?!などと思える結果もあったわけです。

 Biology Lettersに掲載された論文が、私たちの研究の順序としては一本目の論文に当たるのですが、その後、さらにブラジルはRio de Janeiroで確立された株や、シンガポールから入手した株のmtORFvar配列を解析し、これら「熱帯株」も加えて解析した結果をJorunal of Applied Phycologyの論文で発表しています。熱帯株と、日本沿海株は、かなりよく似ていて、見分けがつきませんでした。また、日本各地でとれた株合計30株以上についてmtORFvarを解読してみたところ、確かにバリエーションは見られるのですが、しかし、配列と産水域の相関は見られない。つまり、水域の間の距離がせいぜい数百キロ程度では、mtORFvarを由来水域マーカーとして利用することはできないようです。

 そもそも、ヘテロシグマは、温帯浅海域に広く生息する種類だとされてきたのですが、近年の論文では、熱帯や寒帯からも見出されています。もちろん、以前よりも広く網羅的なモニタリングが徹底したから、数少なく生息していたヘテロシグマが見出されるようになってきた、というのが理由かもしれません。一方で、以前はヘテロシグマによる赤潮なんて報告されていない水域で、今年初めてヘテロシグマ赤潮が起こりました、というような報告もあり。
 近年の気候変動は、海流の変化や、場所によっては水温の継続的な上昇を引き起こしてもおり、また、大型船舶が航行する際に組み上げては排出するバラスト水は、水域の微細藻類もろとも海水を大量に汲み上げて、人為的に移動させる結果になり得ます。このような、自然環境変動+人為的長距離輸送が、ひょっとして微細藻類や細菌などの世界的な分布に影響していたりして、という仮説は長らく提唱されていますが、このような仮説の検証にmtORFvarが役に立ったりして、などと考えています。

 面白いことに、これだけ超可変な配列であるにもかかわらず、mtORFvarは、何か機能性のタンパク質をコードする遺伝子らしく、転写物もみられます。データベース上の既知タンパク質と配列を比較しても、相同性が見られる部位がなく、いったいどんな機能を持っているタンパク質なのか。特に、緯度40度以上・未満産の株の間で、配列の差が大きいことから、緯度の違いから生ずる環境の差・・・・水温?日照時間?・・・などに適応するために必要な因子だったりして、などと楽しく夢想しております。何か仮説を立てて、検証するのが次のユメの一つ、です。

 
 

2017年4月7日金曜日

さて、新年度

 季節は巡るものですので、仕方ないと言えば仕方ないのですが、どうも毎年同じタイミングで同じタイトルになってしまいます。
 待ちに待った新年度です。
 遅めの桜も咲き始め、やっと春。

 の一方で、申請していた科研費の一つが不採択で・・・・。そういう場合に備えて、手元に持っている財団からの研究助成募集リストを見ながら、申請開始。なんだか、着任して半年後とか1年半後の新年度を思い出します。あの頃は、1年ごとに更新される研究費に取っ替え引っ替え応募して、まさに薄氷を踏む思いで露命をつないでいたわけで。今回落ちて悔しい、という思いとともに、着任して今まで5年半、なんてラッキーが続いたんだろう・・・・とも。そしてあの頃は、『自分が落とせば無一文』状態だったのですが、今は、分担として参加させていただいているテーマもあり、それとは明確に気づかないうちにいただいていた命綱にも感謝です。

 とはいえ、くやし〜いぃぃぃけどっ。ちっくしょーーー!!!(笑。

 まあ、せっかくの新年度、気を取り直していきましょう。今のところは乏しい予算から、それでもプライマーも注文できるし、なんというか、血が巡り始めた感じ。毎年のこととはいえ、前に進めるのはありがたいものです。
 
木曜日には、新入生歓迎会も開催されました。今年度も、実り多い年にいたしましょう♪