2016年12月23日金曜日

研究報告3:ヘテロシグマのミトコンドリア・ゲノム配列

 こちらは、小さな仕事ですが、研究報告第3弾。 ヘテロシグマのミトコンドリア・ゲノム配列の完全長を解読しました。

 私たちは、Heterosigma akashiwoと言う種類の単細胞藻類を研究しているわけですが、当然ながら、同じ種でも違う株が存在します。で、それぞれ、例えば細胞の大きさ、増殖速度、ウイルス感受性など、こまごまとした性質が違う。株の個性があるわけですね。

 赤潮という現象の面白さの一つに、性質の違うもの同士のせめぎ合い、があると思います。たとえば、ウイルス感受性が株によって違うのならば、ウイルスによる赤潮終結への効果は、赤潮を構成している株が何であるかによって違ってくるのでは?
 というわけで、株レベルの動態についての情報を得るために、株識別マーカーを確立しようとして、ミトコンドリアゲノムを読んでみたわけです。

 合計6株をNGSで解読した結果、4株について全長の情報を得ることができ、2株については、ギャップがあるものの2本のcontigを得ることができました。
全長情報を得た4株について、全長配列と、コードする遺伝子についての情報をNCBI GenBankに登録し、Genome Announcementsとして公表しました。

 実は、この仕事は、私にとってShort Readsを初めて扱ったもの。そもそも、UNIXってなにさ??な状態の私に、一からコマンドラインを使った解析を教えてくださったゲノム支援の支援班の先生方に心より感謝申し上げます(第一著者・第三著者として共著していただきました)。

 昨今のNGSの普及で、例えばミトコンドリアゲノムを読む、というのは、実に実に敷居の低い仕事になったと言えます。ことにヘテロシグマのミトコンドリアゲノムは、長さとしては39kbpという極めて小さいものなのですが、私にとっては、アセンブル→ORF予測→相同性検索&アノテーション→データベース登録、という流れが初めての経験で、それはそれはてんやわんや。。一度経験したので、次からはもう少し手際よく行くと思います(笑。

 この解析については、ゲノム支援事業にお世話になったこともあり、きちんと世の中に出し、他の研究者に使っていただける形として公表できて、なんというか、役目は果たした、という安心感を味わいました。


ふと思い出したのが、

劫初より造り営む殿堂にわれも黄金の釘一つ打つ  by 与謝野晶子

という、『乱れ髪』とは趣の違う、凛々しい詩

 研究というのは劫初より築かれてきた知識の集大成である殿堂に釘を打つのが仕事で、ウイルスのゲノムだの、ミトンドリアのゲノムを読んで公表する、というのは、言って見れば鉄の釘を生物学という殿堂に一つ打つ、ぐらいに当たるのかなあ。で、だれもが、できれば、一度ぐらい黄金の釘を打ってみたい、と思っている、それが研究という生業なんだろうな。


 とりあえず、鉄の釘を打ったところで、その配列の比較解析に基づいた論文を、現在投稿中です。この仕事自体は小さいものながら、将来に向けてちょっと面白いことがわかったような・・・。
 こういう小さな芽をそれぞれ大切にそだてて、遠い将来であっても、黄金の釘につなげてみたいものです。


先週の写真に続き、チリの写真2枚目。先週の海の写真を撮った地点、角度を変えるとこんな風景が広がっていました。チリ、というと、
乾燥地にある首都サンティアゴの印象が強いのですが、こんなに緑の豊かな土地もあるのです。





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