2016年5月13日金曜日

宝の山

 モデル生物・培養細胞を使う研究をしていると、みんなが使っている株だの系統だのを使って研究をします。既に確立された系統や株の、出処はまず同じなものが、その研究をしているどこのラボにもある。それをみんなが使って研究している。

 私自身も、モデル生物だの培養細胞だのを使う研究分野出身。全く当然のことのように、ヘテロシグマの研究をはじめたときに、お願いして確立された株をよそから頂いて来ました。
 全5株、これをずっと継代したり、無菌化したりして研究を進めてきたわけです。

 でも、考えてみたら、モデル生物だろうが培養細胞だろうが、系統だの株だのって、最初はどこか自然に存在していたものを『とってきた』わけですよね。

 せっかく自然の中での振る舞いに興味を持ってはじめたヘテロシグマの研究。やっぱり、自分で株を拾うところから始めてみようかという気になりました。

 で、株単離。Single cellを拾うわけです。
 ヘテロシグマはプランクトン、自分で泳ぐ生物。というわけで、100倍程度の倍率の顕微鏡下で姿を追いながら、パスツールピペットの先を細くのばしたもので狙いを定め、泳いでいるところをひゅっと吸い込む。プランクトン屋さんは、よく使う方法なのだそうです。

 ぶきっちょには、ムズカしい・・・。とはいえ、私が出張して習ってきたワザを、口伝のみ(見本なし)でHさんに伝えたところ、Hさんはあっという間に上達。
 ぴゅぴゅぴゅっと、いくつも株を拾ってくれるようになりました。

 このワザは、最近共同研究を始めたNさんから伝授していただいたのですが、Nさんが手配してくださって、現在、文字通り日本の津々浦々から、浅海の泥が送られてきています。

 まだ水が冷たい頃に採取された泥の中には、ヘテロシグマのシスト(休眠胞子)が隠れています。これらを、ヘテロシグマ培養に最適な条件でインキュベートして、うまく休眠から目覚めて増殖ステージに入ったヘテロシグマをまずはどんどん株化しよう、というのが当面の計画。

 そもそも、泥からシスト→ヘテロシグマ、という発想が全くなかったので、驚きでした。

 この研究の大元のアイディアを持ち込んだのは私めなのですが、そもそもの目的を達成するためには、いろんな海域のヘテロシグマが欲しい。でも、そんなこと、できるもんでしょうか??と、及び腰でNさんにご相談したところ、あっというまに研究の方向が定まり、サンプルも考えられないぐらい広範囲から集めていただけることになり・・・・。
 共同研究って、スゴイ、ありがたい!を、ここでもまた痛感しました。
 『アイディア』だけじゃ、何もできませんね。ネットワークって、本当に本当に貴重です。

 続々とNさんのところに届く泥からのヘテロシグマ拾い、半分はNさんが担当してくださり、こっちチームはもう半分を担当、ということに。こっちチームは、拾うところはHさんにお願いして、私は培養作業を分担して、しばらくは数をこなす毎日になりそうです。

 海の泥は、何も知らなければ、ヘドロ?と思うような黒い半流動体。50-mlのファルコンチューブに入れて、天地無用のステッカーがベタベタはってある発泡スチロールの箱を受け取った時には、うふふ、宝の山到着!と大事に大事に開封。今日の午後から、ヘテロシグマに目を覚ましてもらうべく、培地に移す作業に入ります。

 


 

 

 

0 件のコメント:

コメントを投稿