2013年2月15日金曜日

新しいラボ・・・・・を作るための、最初の壁

2015年3月22日 以前追加しました『2013年12月22日 付け足し情報』を削除しました。
 
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 新ラボ立ち上げに張り切って取り掛かった新米助教(ワタクシ)の前に立ちはだかった壁とは・・・「予算」。
 はっは、おカネのもんだいでした。

 理学実験系の研究には、多かれ少なかれおカネがかかります。様々な分野があり、上を見ればきりがないにしろ、私が取り組んでいるような、ささやかな植物分子細胞生物学にも、結構おカネはかかるのです。
2011年9月1日。基本的な実験台と水道・ガス・電気の設備の
ほかは、本当に何もなかった当グループの実験室。部屋が、
まるで新車みたいなにおいがしたのを思い出します。
 一つの分子細胞生物学のラボを立ち上げようと思うと、何が何でも必要なもの・・・いわば、台所の『鍋釜包丁』が多くあります。たとえば、冷却卓上遠心機:65万円、遺伝子を増幅するためのサーマルサイクラー:30万円、高圧蒸気滅菌器:50万円、無菌操作のためのクリーンベンチ:70万円、植物の研究をするのに必須な光源付恒温培養器:80万円、サンプル保存に必須な超低温冷凍庫:145万円。小さくなって遺伝子用電気泳動装置:5万円、タンパク質用電気泳動装置:12万円、普通の家庭用冷蔵冷凍庫:10万円。液体窒素をよく使うのですが、この保存タンクが12万円、危険な薬品をしまうための薬品庫が8万円、pHメーター7万円、上皿秤8万円、ここまでで、〆て502万円。すべて、破格バーゲン品ばかり。細かい数値を覚えているところが、これら必需品を買い揃えていた当時の執念を見せつけますね。

 さらに細かいものを上げてみれば、分子生物学の実験では、サンプルを37℃だの、55℃だの、16℃だのと言った温度で一定時間おいておくような操作が必要なのですが、こういう小さな器具(恒温槽)も一台5万円ぐらいします。小型卓上振盪器もよく使うものですが、これも45万円。鍋釜、ならぬ、箸、ぐらいに当たる微量液体測定ピペット(ピペットマン)も、一人の研究者が作業をするためには最低3-4種必要で、これも占めて10万円。もしも3人が実験するならば、おお、なんと『箸』だけで30万円ちかい!
 加えて、耐薬品・耐熱ガラス器具に始まり、試験管立だのプラスチック製使い捨てチューブだの、培養用ピペットだの満足に作業ができるところまでそろえ、さらに仕事用コンピューターだの、プリンターだのソフトウェアだのを購入し・・・・・、不便を感じずに研究できるまでにもっていくために必要な経費は、ま、700万円は下りません。これらは、本当に最低限中の最低限。実際に新しい現象に着目して、遺伝子を単離したり、タンパク質を精製したり、あるいは植物の組織を蛍光顕微鏡や電子顕微鏡で観察したり、植物の粗抽出物を質量分析したり・・・・・・と、いろいろやればやるほど、ウン千万円の機械がいくらでも必要になります。(一般的に、このような高額な理化学機器は、大学や研究所であれば共用機器として購入・管理さることもありますし、殊に資源研は、「全国共同研究拠点」として国から特別な予算を獲得していることから、このような機器を多く所有しているので、その点では本当に恵まれています。)

 さらに、試薬。分子生物学用試薬というのも、値段は安いものから高いものまでいろいろあるのですが、たとえば、開闢わずか1年半の当研究室の冷蔵冷凍庫に入っている試薬だけを大雑把に見積もって、75万円程度。常温保存品も合わせれば、すでに150万円近くを試薬に使っています。実験によっては、比較的単純作業によるものは外注分析にだすことで省力化を図ります・・・つまり、一サンプルいくら、で、おカネがかかる。そして、当然といえば当然な、しかし盲点なのが、電気代。研究室の専有面積によって、電気代が課金されます。(ちなみに、本当だったら、一人っきりのスタートは人手も足りないので、人も雇いたいんです。とすると、人件費。これは大きい。最低で年間200万円。)
 で、私が頂いたスタートアップは200万円。プラス、運営費として1年めに110万円、2年目は90万円程度が支給されました(運営費に関しては、国立大学に勤務している助教一人にしては相当高額なことを申し添えます)。とはいえ、最初に書いた最低700万円の必要経費プラス試薬代、プラス外注費、プラス電気代・・・・には遠くまったく足りません。
 着任早々、私が最初にしたことは、所内の皆様全員にご挨拶&お願いメール。いわく、『ビーカーひとつでも、さびかけたピンセットでも、なんでも結構です、捨てるにはしのびないけれど、いらないなぁ・・・・・というものがありましたら、ぜひご一報ください!』。研究室立ち上げ中の研究者、というより、古物商です。

 新任の私に、皆さん大変親切にしてくださり、いろいろな小型機器を譲ってくださったり、これがなければ研究できない!というような基本的な機器を長期にわたって継続的に貸してくださったり。
 また、所長にご相談して、超低温冷凍庫と低温遠心機は他の研究グループと共同で利用するということで購入していただいたり。
 それでも、着任後一年の私の一番重要な仕事は、実験というよりも、それをはじめるための研究予算の獲得。必要な研究機器を購入するために、目を血走らせてカネの、いや、研究費の亡者状態、毎朝ラボについて最初の仕事は、コンピューターを立ち上げて、新しい研究助成金募集案内のチェック。いつもいつも研究助成金の申請書を書き続けておりました。

 これまでに、二つの私立財団から研究助成金をいただき、やっと人心地ついた今日この頃です。

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