2013年11月29日金曜日

出羽の守バナシ その4:おしゃべり、は、無駄じゃない

 あちらの人はおしゃべりです。

 まぁ、よくしゃべる。知らない人とでもおしゃべりする。ご飯を食べながらおしゃべりする。仕事の最中もおしゃべりする。
 学会に行ってもよくしゃべる。仕事の話もよくするし、仕事以外の話もよくする。

 よくもまぁ、しゃべること。ちょっとは静かに実験せい。

 と、向こうに行ったばかりの、おしゃべりを楽しめるほどの英語力を持たない私は、よく思っておりました。でも、口がほぐれてくると、よくしゃべる人たちと、よくしゃべるようになりました。習慣って、コワイ。

 で、日本に帰ってきた。
 もともと、日本人としてはおしゃべりだった私ですが、かえってきたら、もっとおしゃべりになっていたわけです。
 
 ちっとは静かに仕事せい。

 と思われる方もおいでかもしれませんが、誰彼かまわず(失礼!)たくさんの方たちとおしゃべりすることを心掛けて、職場に溶け込むのも雰囲気をつかむのも早かったと思いますし、おかげさまで快適に仕事ができております。

 仕事のおしゃべり、をしたことがある別部局の思わぬお方から、思いがけないタイミングと事柄で助けていただいたり、アドバイスをいただいたこともあります。

 殊に仕事についてしゃべること、は、『自分がどういうことに興味を持って、何をしたいかと思っているかを表明すること』、なんですよね。そして、わかりやすい人間=近づきやすい。いろいろな方とのおつき合いって、わかっていただけると、とてもスムーズにいくもののようです。

 この間書いた、PacBioのフリーシーケンスキャンペーンに選んでいただけたのも、『おしゃべり』のおかげだと思っています。
 研究会の会場で、このキャンペーンのアナウンスをしてくださった発表者Oさんいわく、「あなたの計画している研究テーマが、どれだけ面白いか、どれだけ熱意を持っているかを手段を選ばず売り込んでください!」。
 もちろん、後日、カラフルで面白げなレジュメを作って提出させていただきました。

 でも、私の中でのレジュメの位置づけは、どちらかといえば『ダメ押し』。直接話したほうが絶対いい!と思い込んでいる私は、このアナウンスの直後に、既に一度名刺を交換していたOさんのところに、自分の名刺をもう一度お持ちしました。今度は、名刺に自分の研究ポスター番号と発表時間を書き込んで、「ぜひ応募したいので、よろしかったら、このポスターにこの時間に見にいらしてください」とお願いしたんですね。Oさんは、お忙しい中、ちゃんと来てくださいました。

 正直言って、たくさんの応募したい人たちが、同じことを考えるに違いない!と思ったので、アナウンスの後に、書き込みした名刺を手に、遠巻きにOさんを見守っていた私ですが・・・・・・待てど暮らせど、誰もアプローチしない。たくさんの人がアプローチするならば、一番最後に話しかけないと忘れられちゃうからね、と思っていたのだけど、その心配もなかった。

 でも、なんで?!『売り込む』のに一番いいのは、顔を合わせておしゃべりすること、なのに。
 学会だの研究会だのって、それでなければ会えない人と『専門的おしゃべり』を楽しむためにおカネ払って行くものなのになぁ。

 帰ってきて2年間。仕事のしやすさにしても、いろいろな方とお知り合いになれたことにしても、これまでの人生のどの2年間よりも、ついているなぁ、と実感しています。
 そして、このツキを呼びこめたのは、たくさんの人とおじずたゆまず沢山おしゃべりできたからだ、とひそかに確信しています。



 
 

 
 
 

 


2013年11月22日金曜日

秋の終わり

 11月、といえば、オオムギの研究をしているグループにとっては播種の季節。

 11月第三週いっぱい、オオムギグループが種まきをしているのが窓から見えました。
 どんどん寒くなっていくなか、皆さん寒さ&UV対策ばっちりで、朝から午後遅くまで畑仕事。
 種まき、といっても、一種類の栽培品種を一面にまくのではなく、数千?種類異なる系統の種を小さく区切った区画にまいて、系統保存のための種を取るのが目的です。当研究所には、日本だけでなく世界各地から収集してきたオオムギのありとあらゆる品種・・・・作物として栽培されているものも、品種改良される前の『原種』に近いものも・・・・・が系統的に保存されています。植物の種というのは、充分乾燥させたのちに適切な低温条件で長く保存できるのですが、しかし永久保存というわけにはいかない。何年に一度か、保存してあった種をまいて栽培して、そこからとった新鮮な種をもう一度乾燥させて保存する・・・・・というプロセスが系統保存には不可欠なのだそうです。

 という作業を横目に、私たちは、相変わらず室内でヘテロシグマ相手に実験しています。
 私がここ数週間で必要なのは、まず、ヘテロシグマから抽出・精製したゲノムまとまった量のDNA。これは、例のフルゲノムを読んでいただくもの。
 一度にがさっと抽出できるのを夢見て、いろいろな手を試みてきたのですが、結局、高価なキットを買ってつかうよりも、当初からもちいていた、手作り試薬を組み合わせた抽出方法が一番、というのがわかってきました。
 というわけで、たぶん来週までとりだめすれば、充分量が蓄積できそう。

 そして、以前から懸案だった、ヘテロシグマに感染するウイルスのゲノム配列も読んでしまいたい。このためには、ヘテロシグマを大量に育てて、ウイルスを感染させ、適切なステージでウイルスを細胞内で増殖させたヘテロシグマを回収し、そこからウイルスを取ってきて、ウイルスのキャプシドをきれいに外してゲノムを回収する・・・というプロセスが必要です。ヘテロシグマのウイルスのうちでも、私が研究しているHeterosigma akashiwo virusは一つのヘテロシグマ細胞あたり増殖させるウイルスの数が小さいのが特徴です。勢い、大量の細胞からウイルスを回収する必要があるので、ヘテロシグマを育ててはウイルスに感染させ、育てては感染させ・・・・の繰り返しです。

 一方で、Hさんは『赤潮発生の謎』に挑んでいます。この詳しい内容はまだヒミツ。きっちりと証明できたらとっても面白い話になると思うのですが、実際の毎日の研究はとても地道な実験の繰り返しです。

 寒がりな私たち二人にとっては、室内でできる研究でよかったね、などと言いながら、毎日圃場を眺めていました。オオムギチームのみなさま、お疲れ様でした!

 

2013年11月15日金曜日

条件設定週

 今週は、とても実験屋らしい一週間でした。
 ウイルスの粒子を精製しようと知恵を絞る毎日。
 以前、ヘテロシグマに感染したウイルスを濃縮しよう!と実験してみて、かなりうまくいって気をよくしていたのですが、たくさん取れてはいるが、どうも純度が低い。

今回の実験は、なるべくウイルス粒子だけをきれいに獲ってこなければならない実験で、収率を犠牲にしても純度は上げたい・・・となると、前に使った実験方法を少し変えなければなりません。

 ヘテロシグマをウイルスに感染させると、最終的にはヘテロシグマは殺藻されて、溶けてなくなり、ウイルス粒子だけが海水中に飛び出していくのですが、この、海水中のウイルスを回収するのは至難の業。
 そこで、感染して、ウイルスはヘテロシグマの中で増えてはいるけれど、まだヘテロシグマが生きていて、ウイルスもヘテロシグマ細胞内にとどまっている状態からウイルスを取ってくることに。

 ウイルス粒子を宿主細胞から精製する手法は、数限りなく知られていますが、それぞれが、あるウイルスを精製するために最適化されています。で、これらを参考に、これまで精製も濃縮もされたことがないヘテロシグマのウイルスを精製しようとすると・・・・・。微妙にうまくいかない。

 「純度が高いウイルス粒子を取ってきたい」ということは、つまり、「ウイルス画分に混ざりがちな、関係のない物質=ヘテロシグマ細胞を壊した時のくずを除きたい」ということ。ウイルスを持った細胞を壊すときの条件を、細胞はきれいに壊れるけれどウイルス粒子は無事、というぎりぎりの線をみつけて、その状態からウイルス粒子だけを集めてくればいい・・・はず。

 と、考えて、ウイルス入りヘテロシグマ細胞を壊すための条件をふってみている間に1週間が終わりました。

 私は、博士課程に在籍している間は、タンパク質の精製や、そのタンパク質が培養細胞に与える影響を調べる仕事をしていて、そのあと植物細胞生物学に移行したのですが、今回のウイルス精製は、学生時代のタンパク質精製実験の経験が役に立っています。ほんとうに、なんでも経験しておくものです。

 こうやってきれいに精製したウイルスは、ゆくゆくは大量に集めて、ウイルスの外殻を作っているキャプシドタンパク質を取り除いて、ウイルスゲノムだけにしたものを用いてウイルスの塩基配列を読みたいとおもっています。綺麗にとるためには、どこを改善すればよいのか見当もついてきたので、気長に条件を詰めてみます。

2013年11月8日金曜日

3度目の正直

 最近、ラッキーなことが続いております。
 まず、某財団から研究助成金がいただけることになりました。
 今年度終りまでの消耗品を買う予算にも事欠きながらも(まだ丸4か月以上あるのに!!)、遺伝子が合成したい、だの、高価な試薬を使った実験の条件設定がしたい、だの、使い道だけには事欠かない。
 5月ごろにいくつもの申請書を書いたけれども、ふたを開けてみたら外して外して・・・・・しかし、残る最後の一つが、きちんと『あたって』くれました。

 こんな生活心臓に悪い・・・・・・。

 とはいえ、大概の研究費は使い切る期限が決まっています。この期間内に使い切らなければ、原則としては召し上げ・・・・堅実に貯金、ができないのがこの稼業の特徴です。宵越しの金はもてないわけで、つまりは制度として自転車操業が課せられてしまうわけですね。ま、代わりに、期限切れの次の日から次の研究費が入るようにすればいいわけですが・・・・・・。

今回は、運が良かった。めでたしめでたし。
と、研究費獲得の知らせに息を吹き返したところで、もう一つうれしいニュースが。

 PacBioフリーシーケンスキャンペーンに選出していただきました。これで、ヘテロシグマの全ゲノムをもう一回読んでもらえます!

 これまでにも書いたように、私たちは、一度、外注でヘテロシグマの全ゲノム配列解読を試みたのですが、どうも結果が・・・・・・。計算では、一度の実験で、ドラフト配列は得られるはずだったのに、ふたを開けてみたら役に立つほどの情報は得られなかったのです。世界的に顧客を持つ大手の会社で定評がある、という話だったけれど、どうも私たちは運が悪かった。

 仕方なく、全ゲノム、ではなく、全発現遺伝子配列を得るためにもう一度別会社(今度は国内の会社)にRNAseqを委託し、こちらは、納得の結果が得られました。

 でも、やっぱり「全ゲノム配列」情報はどーしてもほしい!

 ほしいけれど、予算が・・・・・と思っていたところ、先日出席したNGS現場の会で聞きつけた耳寄りなお話し。
 PacBioという会社が開発した、非常に特色のある技術を使って、面白そうな生物のゲノム配列を3名まで無料で読んであげます!というキャンペーンの募集です。この技術の良さを宣伝するためのキャンペーンというわけですね。初めは3名まで、という触れ込みだったこのキャンペーン、最終的には4名を選出したとのことでした。気前の良さに、感謝!

 現場の会でこのキャンペーンの告知を聞いて、主催者である日本での代理店Tomy Digital Biologyの社員さん3名に、一生懸命アプローチしました。(アイディアの良さで、というよりもむしろ現場の会で『顔をつないだ』ことで選んでいただけたような気もしています。ははは)
 とにもかくにも、わーい、うれしいな!
 もう一度、きれいなヘテロシグマのゲノムDNAを抽出・精製して、今度こそ3度目の正直で、ゲノム配列を入手しよう!と意気込んでいます。

2013年11月1日金曜日

青い海

 Blue Ocean Strategyっていう言葉、ご存知ですか?
 もともとは、本のタイトル
 寡聞にして存じませんでしたが、Blue Oceanは、『他に競合するもののない新しい領域』のこと。「他に競合する者のいない新しい領域で勝負する」といった方針をあらわすのだそうです。そもそもは、マーケティングのお話しですね。逆に、既に競合相手がいる領域は、Red Oceanというのだそうです。

 先週書いた、所内発表会で、何人かの同僚たちから「なんで、赤潮原因藻に興味を持ったの?」と聞かれました。
 答えは、「面白そうで、扱いやすそうで、しかも他にやっている人がいないから」。

 ヘテロシグマは、
1.赤潮を起こす=自然界で、目立った面白い現象の原因である。
2.単細胞で、分裂で増える=生活環が単純でわかりやすい(はず)
3.現在の次世代シーケンス技術をもってすれば読めそうな程度のサイズのゲノムを持つ
4.生態学的見地からの研究はされているものの、分子・細胞レベルの研究をしている人は、皆無。
 ということから、ヘテロシグマに目を付けたのです。(今年の2月に、ヘテロシグマを使っているという記事を書きましたが、そこでは、「なぜヘテロシグマに目を付けたか」については意識してぼかして書いてあったことを、記事を読んで思い出しました。)
 
 このポストに就くまでは、私は、植物ウイルスであるタバコモザイクウイルスと植物(タバコとか、ナズナとか)の間の分子生物学的研究をしていました。タバコモザイクウイルスは、実は人類が最初に『ウイルス』として発見したものなんです。で、その宿主であるタバコとか、植物を研究するときに標準的に用いられるナズナにおけるタバコモザイクウイルスの研究は、それはそれは歴史が長い。
 いまでも、関心を持っている人が、たくさんいる。これぞ、Red Ocean。

 多くのグループが、同じモデル生物で似たようなトピックで研究をすると、当然、競争が激化したり、あるいは相反する知見が生じたりします。となると、残念ながら、面倒なことになる。競争相手に自分のやっている研究の先を越されるのではないかと四六時中ひやひやしたり、あるいは、論文を書いて査読に廻ったら、ライバルに意地の悪いコメントをされて困ってしまったり。

 私自身は、この状態を『小さい池で多くのヒトが釣りをするようなもの』と思っておりました。長年研究されてきた分野だから、釣りやすくて大きな魚は、もう釣られてしまっている。残る魚の数は限られているのに、釣り人はたくさんいて。。。。。腕がいいヒト、いいポイントを捜し当てたヒトはいいけれど、そうでないと手ぶらで引き上げることに。そして、手ぶらで引き上げる、とは、研究者の人生では、結果が出せなくて、悪くすると挙句失職ということを意味するわけで・・・・・。
 
 私は、この小さい池で釣りをする多くの釣り人のひとり、をずいぶん長いこと経験したわけです。で、手ぶらで引き上げて・・・・・研究をやめていったひとも少数ながら知っています。

 で、思ったんです。
 もう、小さな池はいいや。ほかにだれも釣りをしていないところにいって、のびのびやりた~~い!!

 というわけで、ああだこうだと頭を絞っていたのが、ここに着任する前の2か月間。いきなり『大海に釣り船・オールで漕ぎ出してみました』感満載ですが、最近とくに、やっぱり広い海っていいわ、と思います。

 ところで、このBlue Ocean Strategyを成功させるための4つのステップは、
  1. how to create uncontested market space by reconstructing market boundaries
  2. focusing on the big picture,
  3. reaching beyond existing demand 
  4. getting the strategic sequence right
だそうです。

 研究に強引に当てはめれば、
  1. 新しい研究領域をみいだし、
  2. 視野を広く持って、意義の大きい研究テーマを選択し、
  3. これまでに存在しない斬新な研究計画を発案し
  4. 実際の実験を行い結果を出す。
 という感じでしょうか。

 それにしても、Blue Oceanなんていう冴えた表現で自分が漠然と夢見てきたことが表現されていると、心強くなりますね。
 というわけで、赤潮に青い海を求めて、3.にあたる(つもりの)研究費申請書を上げまして、これから、また、4.の実行ステップに戻ります。