2016年12月2日金曜日

研究報告1:ヘテロシグマと随伴細菌

 やっとの事で、この論文を世に出すことができました。というわけで、初の研究成果解説です♪

Selective growth promotion of bloom-forming raphidophyte Heterosigma akashiwo by a marine bacterial strain

 赤潮というのは面白い現象です。
 赤潮の原因になる藻類・・・私たちが研究しているヘテロシグマ 学名(Heterosigma akashiwo) もそのうちの一つ・・・は、普通に青い海では、1リットルの海水に数個ずつ、何種類もが入り混じって生息しています。
 しかし、何らかのきっかけがあると、何種類もの赤潮原因藻のうち一種類だけが、あたかも選ばれたかのように急に増殖し始め、多種を圧倒して時に1mlあたり100万細胞まで増殖します。このように一種の赤潮原因藻が高密度で圧倒的に優占した状態が「赤潮」の正体です。
 赤潮の原因は、高水温、とか、富栄養化とか言われています。また、赤潮原因藻のうち、いくつかについては、アレロパシー効果・・・共存する他の生物の増殖あるいは生存のための活動を阻害する効果・・・を持ちます。
 赤潮の一種優占状態は、これらの組み合わせにより起こるのだろうとは考えられてきたのですが、何種類も生息している赤潮原因藻のうち一種だけが優占する、また、その時々によって違う種が優占する、というのはなぜかと考えると、ちょっと説明がつきにくい。という背景があります。

 で、今回の私たちの仕事です。
 私たちは、ヘテロシグマと共生する細菌 Altererythrobacter ishigakiensis YF1株を単離し、この細菌がヘテロシグマの増殖を促進すること、また、ヘテロシグマが増殖して達する最高細胞密度を増加させることを見出しました。

 この細菌は、ヘテロシグマと近縁とされる赤潮原因藻シャトネラの増殖には影響を与えません。つまり、 YF1は、ヘテロシグマ特異的に増殖を促進し、最高細胞密度=赤潮の密度を増加させるということになります。

 ここで閑話休題。
 ヘテロシグマとシャトネラを混合して培養すると、ヘテロシグマは増殖するのですが、シャトネラの増殖は抑制されます。この理由としては、すでに報告があるヘテロシグマが持つシャトネラに対するアレロパシー効果、あるいは、ヘテロシグマがシャトネラよりも、栄養塩などの取り込み効率が高いため、競争力の低さからシャトネラ増殖が抑制されるという可能性があります。これまでの知見では、この、アレロパシー効果が赤潮原因藻優占のメカニズムであると考えられていました。

で、話をバクテリアに戻します。ヘテロシグマとシャトネラの混合培養系に、YF1を加えると、 YF1 がない場合に比べて、ヘテロシグマの増殖は促進されますが、シャトネラの増殖は顕著に抑えられます。ヘテロシグマの増殖『だけ』が YF1によって促進され、さらにヘテロシグマはシャトネラ増殖を抑制するから、ですね。
 ここで、ヘテロシグマの増殖が早くなり、さらに最高細胞密度が上昇する一方で、シャトネラの増殖が抑制されるとどうなるか、というと、結果としては、培養系に対するヘテロシグマの割合が大幅に上昇する一方でシャトネラの割合は低く抑えられるということになります。つまり、YF1によりヘテロシグマの優占性がさらに強化されるわけです。

 以上の結果は、ある種の赤潮原因藻に対して特異的に増殖を促進するような細菌が、赤潮形成過程に見られる赤潮原因藻の一種に限局した急激な増殖と優占の原因である可能性を示唆すると考えています。
 
 単純な発想と実験の組み合わせながら、面白いことが言えたと思っているのですが、これがなかなか受理されなかったのは、一つには、バクテリア研究に経験が浅く、赤潮原因藻とバクテリアという組み合わせで研究した結果を、微生物屋さんにアピールする力が足りなかったため、という反省をしています。できればより広い読者層を持つ環境微生物学の雑誌に載せたいと思っていたのですが、赤潮専門の雑誌に掲載が決まりました。

 近年の技術の進歩により、現在の微生物学では、まずはバクテリアゲノムの遺伝子配列をを読んで、そこから分子レベルの研究に切り込む、ということが可能です。私たちの結果のように、まずは、種の競合と共存を細胞数を数えるという素朴な方法で示した結果だと、面白くはあるけど、もっといろいろやってみたら?と言われてしまうわけで。
 というわけで、この仕事の続きは、ヘテロシグマとAltererythrobacter ishigakiensis YF1株の共生メカニズムを分子レベルで読み解くこと。その準備を進めています。

 この記事は、ブラジルの次に訪ねたチリで書きました。ブラジルも遠い国ですが、チリはもっと馴染みがない気分・・・・今回の出張の機会を与えてくださった共同研究者に感謝です。ブラジルではポルトガル語が話せたら、と思いましたが、チリではスペイン語が話せたら〜、とやはり切実に思いました。とはいえ、ブラジル人とチリ人がポルトガル語とスペイン語でおしゃべりすると、大概問題なく通じるのだそうです。どっちかから身に付けたいな、と、思ってしまいますね。

 

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