さて、今年も無事に暮れますね。
毎年毎年、年の終わりの記事は、この言葉で始めていますが、実感として、一年を無事に送ることができたということは、ありがたいことです。
今年も一年お付き合いくださり、本当にありがとうございました。
年末といえば、今年の一文字。
2013年に、うちのグループの一年を漢字一文字に例えたら?というのを書いていたのですが、それによると、
2011 『迷』 筆者13年ぶりに帰国して新グループ立ち上げに右往左往、わけわからず・・・。
2012 『悩』 研究費調達に頭を悩ませる一年。年の終わりぐらいに多少のめどが立ってやれやれ。
2013 『発』 年の初めでいろいろ揃って、やっと出発の感じ・・・。
うーん、ここまで、相当情けない(笑。
で、2014/2015年は拡充、そして今年は、勢いをつけて走っている感じ、です。
とりあえず、今年になってヘテロシグマの論文を4本やっとのことで世に出すことができたことには、ほっとするやら、嬉しいやら、です。そして、当然と言えば当然ですが、論文の紹介記事を載せると、アクセスが増えるのもとてもありがたく、感謝です。
現在、査読に回っている論文と、revision中の論文にも、頑張ってもらいたいものです。
予算の申請だの、海外の研究者との共同研究開始だの、今後すくすく育てたい種も蒔いたし、充実した一年だったと言って良いのではないでしょうか。
まだまだ足りないものが目に付きますが、それでも、立ち上げ5年、いろんなことが案外収まり良く出来上がってきたような気もします。
いつも読んでくださる皆さまと共に、来年は、さらにproductiveな年にできますように。
本年も、どうもありがとうございました。
来年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
来年は、来週金曜日六日にご挨拶させていただきます。
岡山大 資植研 萌芽・学際新展開G公式ブログです。 毎週、私たちがどのような仕事をしているか、大学で研究するというのはどういう生活なのかをお知らせしていこうと思います。 どうぞよろしくお願いします。
2016年12月30日金曜日
2016年12月23日金曜日
研究報告3:ヘテロシグマのミトコンドリア・ゲノム配列
こちらは、小さな仕事ですが、研究報告第3弾。 ヘテロシグマのミトコンドリア・ゲノム配列の完全長を解読しました。
私たちは、Heterosigma akashiwoと言う種類の単細胞藻類を研究しているわけですが、当然ながら、同じ種でも違う株が存在します。で、それぞれ、例えば細胞の大きさ、増殖速度、ウイルス感受性など、こまごまとした性質が違う。株の個性があるわけですね。
赤潮という現象の面白さの一つに、性質の違うもの同士のせめぎ合い、があると思います。たとえば、ウイルス感受性が株によって違うのならば、ウイルスによる赤潮終結への効果は、赤潮を構成している株が何であるかによって違ってくるのでは?
というわけで、株レベルの動態についての情報を得るために、株識別マーカーを確立しようとして、ミトコンドリアゲノムを読んでみたわけです。
合計6株をNGSで解読した結果、4株について全長の情報を得ることができ、2株については、ギャップがあるものの2本のcontigを得ることができました。全長情報を得た4株について、全長配列と、コードする遺伝子についての情報をNCBI GenBankに登録し、Genome Announcementsとして公表しました。
実は、この仕事は、私にとってShort Readsを初めて扱ったもの。そもそも、UNIXってなにさ??な状態の私に、一からコマンドラインを使った解析を教えてくださったゲノム支援の支援班の先生方に心より感謝申し上げます(第一著者・第三著者として共著していただきました)。
昨今のNGSの普及で、例えばミトコンドリアゲノムを読む、というのは、実に実に敷居の低い仕事になったと言えます。ことにヘテロシグマのミトコンドリアゲノムは、長さとしては39kbpという極めて小さいものなのですが、私にとっては、アセンブル→ORF予測→相同性検索&アノテーション→データベース登録、という流れが初めての経験で、それはそれはてんやわんや。。一度経験したので、次からはもう少し手際よく行くと思います(笑。
この解析については、ゲノム支援事業にお世話になったこともあり、きちんと世の中に出し、他の研究者に使っていただける形として公表できて、なんというか、役目は果たした、という安心感を味わいました。
ふと思い出したのが、
劫初より造り営む殿堂にわれも黄金の釘一つ打つ by 与謝野晶子
という、『乱れ髪』とは趣の違う、凛々しい詩。
研究というのは劫初より築かれてきた知識の集大成である殿堂に釘を打つのが仕事で、ウイルスのゲノムだの、ミトンドリアのゲノムを読んで公表する、というのは、言って見れば鉄の釘を生物学という殿堂に一つ打つ、ぐらいに当たるのかなあ。で、だれもが、できれば、一度ぐらい黄金の釘を打ってみたい、と思っている、それが研究という生業なんだろうな。
とりあえず、鉄の釘を打ったところで、その配列の比較解析に基づいた論文を、現在投稿中です。この仕事自体は小さいものながら、将来に向けてちょっと面白いことがわかったような・・・。
こういう小さな芽をそれぞれ大切にそだてて、遠い将来であっても、黄金の釘につなげてみたいものです。
私たちは、Heterosigma akashiwoと言う種類の単細胞藻類を研究しているわけですが、当然ながら、同じ種でも違う株が存在します。で、それぞれ、例えば細胞の大きさ、増殖速度、ウイルス感受性など、こまごまとした性質が違う。株の個性があるわけですね。
赤潮という現象の面白さの一つに、性質の違うもの同士のせめぎ合い、があると思います。たとえば、ウイルス感受性が株によって違うのならば、ウイルスによる赤潮終結への効果は、赤潮を構成している株が何であるかによって違ってくるのでは?
というわけで、株レベルの動態についての情報を得るために、株識別マーカーを確立しようとして、ミトコンドリアゲノムを読んでみたわけです。
合計6株をNGSで解読した結果、4株について全長の情報を得ることができ、2株については、ギャップがあるものの2本のcontigを得ることができました。全長情報を得た4株について、全長配列と、コードする遺伝子についての情報をNCBI GenBankに登録し、Genome Announcementsとして公表しました。
実は、この仕事は、私にとってShort Readsを初めて扱ったもの。そもそも、UNIXってなにさ??な状態の私に、一からコマンドラインを使った解析を教えてくださったゲノム支援の支援班の先生方に心より感謝申し上げます(第一著者・第三著者として共著していただきました)。
昨今のNGSの普及で、例えばミトコンドリアゲノムを読む、というのは、実に実に敷居の低い仕事になったと言えます。ことにヘテロシグマのミトコンドリアゲノムは、長さとしては39kbpという極めて小さいものなのですが、私にとっては、アセンブル→ORF予測→相同性検索&アノテーション→データベース登録、という流れが初めての経験で、それはそれはてんやわんや。。一度経験したので、次からはもう少し手際よく行くと思います(笑。
この解析については、ゲノム支援事業にお世話になったこともあり、きちんと世の中に出し、他の研究者に使っていただける形として公表できて、なんというか、役目は果たした、という安心感を味わいました。
ふと思い出したのが、
劫初より造り営む殿堂にわれも黄金の釘一つ打つ by 与謝野晶子
という、『乱れ髪』とは趣の違う、凛々しい詩。
研究というのは劫初より築かれてきた知識の集大成である殿堂に釘を打つのが仕事で、ウイルスのゲノムだの、ミトンドリアのゲノムを読んで公表する、というのは、言って見れば鉄の釘を生物学という殿堂に一つ打つ、ぐらいに当たるのかなあ。で、だれもが、できれば、一度ぐらい黄金の釘を打ってみたい、と思っている、それが研究という生業なんだろうな。
とりあえず、鉄の釘を打ったところで、その配列の比較解析に基づいた論文を、現在投稿中です。この仕事自体は小さいものながら、将来に向けてちょっと面白いことがわかったような・・・。
こういう小さな芽をそれぞれ大切にそだてて、遠い将来であっても、黄金の釘につなげてみたいものです。
先週の写真に続き、チリの写真2枚目。先週の海の写真を撮った地点、角度を変えるとこんな風景が広がっていました。チリ、というと、 乾燥地にある首都サンティアゴの印象が強いのですが、こんなに緑の豊かな土地もあるのです。 |
2016年12月16日金曜日
研究報告2:ヘテロシグマに感染する大型ウイルス
研究報告2回目。
今回は、Frontiers in Microbiologyで公表した論文、"Evolution and Phylogeny of Large DNA Viruses, Mimiviridae and Phycodnaviridae Including Newly Characterized Heterosigma akashiwo Virus"についてです。
ヘテロシグマに感染するウイルスの一つとして、二本鎖DNAをゲノムとして持つHeterosigma akashiwo virus(HaV)というウイルスが存在します。20年以上前に単離されているウイルスなのですが、この配列は決定されていませんでした。理由の一つとして、そのサイズが大きかったことが挙げられます。私たちは、大きさ275 kbpというゲノムサイズを持つ、このウイルスの全長配列を決定しました(こちらはGenome Annoucementsで発表済み)。この論文では、その配列を解析し、他の大型二本鎖DNAウイルスと比較して、系統分類学的・進化学的にいって、HaVがどのあたりに位置するのかを示しました。
ウイルス、というものは、英語では‘organisms at the edge of life’とも表現される、いわば『半生命体』といえます。多くはせいぜい10個程度の遺伝子を有し(つまりゲノムも小さい)、それらの因子を駆使して宿主細胞に働きかけ、ウイルス自身の増殖を可能にしています。宿主なしには増殖できない『物質』であることから、生物、とは言えないわけです。
細胞のような複雑な構造も持たず、大きさも小さく、遺伝子数も少ない。
というのが、ウイルスの特徴として受け入れられてきたわけですが、近年、大型ウイルス、といわれるものが数多く同定されるようになってきました。これら大型ウイルスの特徴としては、ゲノムが大型であること(つまり、コードしている遺伝子数も多い)、時にウイルス粒子も大きいこと、が挙げられます。物によっては、これまでに同定されている細胞性生物よりも大きなウイルスが存在し、これまでの「ウイルス」という概念を揺るがすものとして注目を集めています。
HaVは、この大型二本鎖DNAウイルスの一つです。解析したところ、遺伝子数246個を持っています。Heterosigmaという藻類に感染することから、Phycodnavirus(Phyco = 藻類、dna = DNA)と呼ばれています。他にも、Phycodnavirusと認識されているウイルスは多数存在するのですが、しかし、この分類は本当に適切なのか??という疑問が呈されていました。
そもそも、『藻類』という分類自体が、水域に生息する光合成をする生物の総称。ヘテロシグマも、ノリも、コンブもみんな藻類です。かなり経験的というか、あまりにも生物としては異なる種を包括的に含んでいる分類。で、それらに感染する大きいDNAウイルスは、みんな 藻類DNAウイルス!ということになっているわけで、これはやっぱり変でしょう、という声が数多く上がっていました。
私たちは、この仕事で、HaVを含むPhycodnavirusと、Phycodnavirusに近いとされるMimivirusについて、配列の比較解析を行いました。その結果、Phycodnavirus+Mimivirusの分類を再定義するとともに、HaVがこれまでに単離・同定されてきたどのPhycodnavirusとも似ていない、ユニークな存在であることを明らかにしました。
私自身にとって、このような配列解析onlyの仕事は初めてで、公表されている論文を単に読むだけではさっぱり理解できなかったことが、この仕事を通してかなりすっきりとわかるようになりました。
HaVは、分類学的に見てユニークだということを示したわけですが、現在行っている感染過程の遺伝子発現解析を見ても、確かに他の大型二本鎖DNAウイルスには見られないユニークな点を見出したところです。配列解析の結果わかった特徴が、ウイルス感染過程の特徴と綺麗に結びつくかどうかを今後見ていきたいと思いっています。
今回は、Frontiers in Microbiologyで公表した論文、"Evolution and Phylogeny of Large DNA Viruses, Mimiviridae and Phycodnaviridae Including Newly Characterized Heterosigma akashiwo Virus"についてです。
ヘテロシグマに感染するウイルスの一つとして、二本鎖DNAをゲノムとして持つHeterosigma akashiwo virus(HaV)というウイルスが存在します。20年以上前に単離されているウイルスなのですが、この配列は決定されていませんでした。理由の一つとして、そのサイズが大きかったことが挙げられます。私たちは、大きさ275 kbpというゲノムサイズを持つ、このウイルスの全長配列を決定しました(こちらはGenome Annoucementsで発表済み)。この論文では、その配列を解析し、他の大型二本鎖DNAウイルスと比較して、系統分類学的・進化学的にいって、HaVがどのあたりに位置するのかを示しました。
ウイルス、というものは、英語では‘organisms at the edge of life’とも表現される、いわば『半生命体』といえます。多くはせいぜい10個程度の遺伝子を有し(つまりゲノムも小さい)、それらの因子を駆使して宿主細胞に働きかけ、ウイルス自身の増殖を可能にしています。宿主なしには増殖できない『物質』であることから、生物、とは言えないわけです。
細胞のような複雑な構造も持たず、大きさも小さく、遺伝子数も少ない。
というのが、ウイルスの特徴として受け入れられてきたわけですが、近年、大型ウイルス、といわれるものが数多く同定されるようになってきました。これら大型ウイルスの特徴としては、ゲノムが大型であること(つまり、コードしている遺伝子数も多い)、時にウイルス粒子も大きいこと、が挙げられます。物によっては、これまでに同定されている細胞性生物よりも大きなウイルスが存在し、これまでの「ウイルス」という概念を揺るがすものとして注目を集めています。
HaVは、この大型二本鎖DNAウイルスの一つです。解析したところ、遺伝子数246個を持っています。Heterosigmaという藻類に感染することから、Phycodnavirus(Phyco = 藻類、dna = DNA)と呼ばれています。他にも、Phycodnavirusと認識されているウイルスは多数存在するのですが、しかし、この分類は本当に適切なのか??という疑問が呈されていました。
そもそも、『藻類』という分類自体が、水域に生息する光合成をする生物の総称。ヘテロシグマも、ノリも、コンブもみんな藻類です。かなり経験的というか、あまりにも生物としては異なる種を包括的に含んでいる分類。で、それらに感染する大きいDNAウイルスは、みんな 藻類DNAウイルス!ということになっているわけで、これはやっぱり変でしょう、という声が数多く上がっていました。
私たちは、この仕事で、HaVを含むPhycodnavirusと、Phycodnavirusに近いとされるMimivirusについて、配列の比較解析を行いました。その結果、Phycodnavirus+Mimivirusの分類を再定義するとともに、HaVがこれまでに単離・同定されてきたどのPhycodnavirusとも似ていない、ユニークな存在であることを明らかにしました。
私自身にとって、このような配列解析onlyの仕事は初めてで、公表されている論文を単に読むだけではさっぱり理解できなかったことが、この仕事を通してかなりすっきりとわかるようになりました。
HaVは、分類学的に見てユニークだということを示したわけですが、現在行っている感染過程の遺伝子発現解析を見ても、確かに他の大型二本鎖DNAウイルスには見られないユニークな点を見出したところです。配列解析の結果わかった特徴が、ウイルス感染過程の特徴と綺麗に結びつくかどうかを今後見ていきたいと思いっています。
突然ですが、南太平洋。チリでのサンプリング途中で見た景色です。 高台から眺める海岸線。壮大で、美しかったです。 |
2016年12月9日金曜日
帰国しました
11月16日〜12月3日、合計18日のブラジルはリオ・デ・ジャネイロ、およびチリはテムコ、それぞれほぼ1週間滞在した出張から帰国しました。
さすがに、2週間以上は長いですね。そして、ブラジルまでの往復は、正味片道24時間の飛行時間。南米といえば、地球の裏側、やっぱり遠かった。リオ・NY・成田の道順をとった帰路は、特にNY・成田間が14時間かかることもあり、さすがに倉敷駅に着いた時にはホッとしました。
南半球を訪ねる旅は、季節が逆さまなのも新鮮。ブラジルは、そろそろ夏に差し掛かる時期、日によっては摂氏40度というとんでもない気候らしいのですが、私たちが滞在した間はそこまでの高温はなく、まあ、最高気温30度ぐらい。チリ・テムコは最高気温25度程度、夜間は一桁の気温という春の陽気。日本の冬と合わせると、3つの季節を2週間ちょっとで通り抜けたことになりますが、体調も壊さず無事に帰国致しました。
長い分、有意義な旅でもありました。
もともと、共同研究しようね、という話になっていたチリのラボにお邪魔するのが大きな目的だったのですが、その前に立ち寄ったブラジルのグループとも、共同研究をしましょう、という話になって、予算申請の話し合いをしたり、サンプル交換・情報提供の話し合いをしたり。
国境を挟んでいるので、多分煩雑な手続きも入ってくると思われるのですが、一方で、非日本人・非英語を母国語とする人と仕事の話をすると、フランクにいろんなおしゃべりができて独特の開放感があります。単に気があうタイプの方たちと出会えたのか、それとも、お互いに母国語でない英語で話をしていることから、小器用に気を回すことができない状態で情報交換しているからこうなるのか。
ありがたいと常々感謝している日本人の共同研究者とやりとりしている時にすらなかった、別の楽しさ・面白さがあり、こんなこともあるのね、と、目からうろこの気分でした。大事に発展させたいです。
などと、出張の余韻に浸っているところに、次から次へと、連絡が。前から、世界各地のヘテロシグマを取り寄せて、ある解析をしてみたいと思い、あちこちのResource centerに問い合わせをしていたのですが、準備完了、カルチャーを送るよ!とのご連絡が一気に4件。今週末には、ヨーロッパ・北米・ニュージーランドなどなど原産の20株近いヘテロシグマが手元に揃うはず、です。
さすがに、2週間以上は長いですね。そして、ブラジルまでの往復は、正味片道24時間の飛行時間。南米といえば、地球の裏側、やっぱり遠かった。リオ・NY・成田の道順をとった帰路は、特にNY・成田間が14時間かかることもあり、さすがに倉敷駅に着いた時にはホッとしました。
南半球を訪ねる旅は、季節が逆さまなのも新鮮。ブラジルは、そろそろ夏に差し掛かる時期、日によっては摂氏40度というとんでもない気候らしいのですが、私たちが滞在した間はそこまでの高温はなく、まあ、最高気温30度ぐらい。チリ・テムコは最高気温25度程度、夜間は一桁の気温という春の陽気。日本の冬と合わせると、3つの季節を2週間ちょっとで通り抜けたことになりますが、体調も壊さず無事に帰国致しました。
長い分、有意義な旅でもありました。
もともと、共同研究しようね、という話になっていたチリのラボにお邪魔するのが大きな目的だったのですが、その前に立ち寄ったブラジルのグループとも、共同研究をしましょう、という話になって、予算申請の話し合いをしたり、サンプル交換・情報提供の話し合いをしたり。
国境を挟んでいるので、多分煩雑な手続きも入ってくると思われるのですが、一方で、非日本人・非英語を母国語とする人と仕事の話をすると、フランクにいろんなおしゃべりができて独特の開放感があります。単に気があうタイプの方たちと出会えたのか、それとも、お互いに母国語でない英語で話をしていることから、小器用に気を回すことができない状態で情報交換しているからこうなるのか。
ありがたいと常々感謝している日本人の共同研究者とやりとりしている時にすらなかった、別の楽しさ・面白さがあり、こんなこともあるのね、と、目からうろこの気分でした。大事に発展させたいです。
などと、出張の余韻に浸っているところに、次から次へと、連絡が。前から、世界各地のヘテロシグマを取り寄せて、ある解析をしてみたいと思い、あちこちのResource centerに問い合わせをしていたのですが、準備完了、カルチャーを送るよ!とのご連絡が一気に4件。今週末には、ヨーロッパ・北米・ニュージーランドなどなど原産の20株近いヘテロシグマが手元に揃うはず、です。
2016年12月2日金曜日
研究報告1:ヘテロシグマと随伴細菌
やっとの事で、この論文を世に出すことができました。というわけで、初の研究成果解説です♪
Selective growth promotion of bloom-forming raphidophyte Heterosigma akashiwo by a marine bacterial strain
赤潮というのは面白い現象です。
赤潮の原因になる藻類・・・私たちが研究しているヘテロシグマ 学名(Heterosigma akashiwo) もそのうちの一つ・・・は、普通に青い海では、1リットルの海水に数個ずつ、何種類もが入り混じって生息しています。
しかし、何らかのきっかけがあると、何種類もの赤潮原因藻のうち一種類だけが、あたかも選ばれたかのように急に増殖し始め、多種を圧倒して時に1mlあたり100万細胞まで増殖します。このように一種の赤潮原因藻が高密度で圧倒的に優占した状態が「赤潮」の正体です。
赤潮の原因は、高水温、とか、富栄養化とか言われています。また、赤潮原因藻のうち、いくつかについては、アレロパシー効果・・・共存する他の生物の増殖あるいは生存のための活動を阻害する効果・・・を持ちます。
赤潮の一種優占状態は、これらの組み合わせにより起こるのだろうとは考えられてきたのですが、何種類も生息している赤潮原因藻のうち一種だけが優占する、また、その時々によって違う種が優占する、というのはなぜかと考えると、ちょっと説明がつきにくい。という背景があります。
で、今回の私たちの仕事です。
私たちは、ヘテロシグマと共生する細菌 Altererythrobacter ishigakiensis YF1株を単離し、この細菌がヘテロシグマの増殖を促進すること、また、ヘテロシグマが増殖して達する最高細胞密度を増加させることを見出しました。
この細菌は、ヘテロシグマと近縁とされる赤潮原因藻シャトネラの増殖には影響を与えません。つまり、 YF1は、ヘテロシグマ特異的に増殖を促進し、最高細胞密度=赤潮の密度を増加させるということになります。
ここで閑話休題。
ヘテロシグマとシャトネラを混合して培養すると、ヘテロシグマは増殖するのですが、シャトネラの増殖は抑制されます。この理由としては、すでに報告があるヘテロシグマが持つシャトネラに対するアレロパシー効果、あるいは、ヘテロシグマがシャトネラよりも、栄養塩などの取り込み効率が高いため、競争力の低さからシャトネラ増殖が抑制されるという可能性があります。これまでの知見では、この、アレロパシー効果が赤潮原因藻優占のメカニズムであると考えられていました。
で、話をバクテリアに戻します。ヘテロシグマとシャトネラの混合培養系に、YF1を加えると、 YF1 がない場合に比べて、ヘテロシグマの増殖は促進されますが、シャトネラの増殖は顕著に抑えられます。ヘテロシグマの増殖『だけ』が YF1によって促進され、さらにヘテロシグマはシャトネラ増殖を抑制するから、ですね。
ここで、ヘテロシグマの増殖が早くなり、さらに最高細胞密度が上昇する一方で、シャトネラの増殖が抑制されるとどうなるか、というと、結果としては、培養系に対するヘテロシグマの割合が大幅に上昇する一方でシャトネラの割合は低く抑えられるということになります。つまり、YF1によりヘテロシグマの優占性がさらに強化されるわけです。
以上の結果は、ある種の赤潮原因藻に対して特異的に増殖を促進するような細菌が、赤潮形成過程に見られる赤潮原因藻の一種に限局した急激な増殖と優占の原因である可能性を示唆すると考えています。
単純な発想と実験の組み合わせながら、面白いことが言えたと思っているのですが、これがなかなか受理されなかったのは、一つには、バクテリア研究に経験が浅く、赤潮原因藻とバクテリアという組み合わせで研究した結果を、微生物屋さんにアピールする力が足りなかったため、という反省をしています。できればより広い読者層を持つ環境微生物学の雑誌に載せたいと思っていたのですが、赤潮専門の雑誌に掲載が決まりました。
近年の技術の進歩により、現在の微生物学では、まずはバクテリアゲノムの遺伝子配列をを読んで、そこから分子レベルの研究に切り込む、ということが可能です。私たちの結果のように、まずは、種の競合と共存を細胞数を数えるという素朴な方法で示した結果だと、面白くはあるけど、もっといろいろやってみたら?と言われてしまうわけで。
というわけで、この仕事の続きは、ヘテロシグマとAltererythrobacter ishigakiensis YF1株の共生メカニズムを分子レベルで読み解くこと。その準備を進めています。
この記事は、ブラジルの次に訪ねたチリで書きました。ブラジルも遠い国ですが、チリはもっと馴染みがない気分・・・・今回の出張の機会を与えてくださった共同研究者に感謝です。ブラジルではポルトガル語が話せたら、と思いましたが、チリではスペイン語が話せたら〜、とやはり切実に思いました。とはいえ、ブラジル人とチリ人がポルトガル語とスペイン語でおしゃべりすると、大概問題なく通じるのだそうです。どっちかから身に付けたいな、と、思ってしまいますね。
Selective growth promotion of bloom-forming raphidophyte Heterosigma akashiwo by a marine bacterial strain
赤潮というのは面白い現象です。
赤潮の原因になる藻類・・・私たちが研究しているヘテロシグマ 学名(Heterosigma akashiwo) もそのうちの一つ・・・は、普通に青い海では、1リットルの海水に数個ずつ、何種類もが入り混じって生息しています。
しかし、何らかのきっかけがあると、何種類もの赤潮原因藻のうち一種類だけが、あたかも選ばれたかのように急に増殖し始め、多種を圧倒して時に1mlあたり100万細胞まで増殖します。このように一種の赤潮原因藻が高密度で圧倒的に優占した状態が「赤潮」の正体です。
赤潮の原因は、高水温、とか、富栄養化とか言われています。また、赤潮原因藻のうち、いくつかについては、アレロパシー効果・・・共存する他の生物の増殖あるいは生存のための活動を阻害する効果・・・を持ちます。
赤潮の一種優占状態は、これらの組み合わせにより起こるのだろうとは考えられてきたのですが、何種類も生息している赤潮原因藻のうち一種だけが優占する、また、その時々によって違う種が優占する、というのはなぜかと考えると、ちょっと説明がつきにくい。という背景があります。
で、今回の私たちの仕事です。
私たちは、ヘテロシグマと共生する細菌 Altererythrobacter ishigakiensis YF1株を単離し、この細菌がヘテロシグマの増殖を促進すること、また、ヘテロシグマが増殖して達する最高細胞密度を増加させることを見出しました。
この細菌は、ヘテロシグマと近縁とされる赤潮原因藻シャトネラの増殖には影響を与えません。つまり、 YF1は、ヘテロシグマ特異的に増殖を促進し、最高細胞密度=赤潮の密度を増加させるということになります。
ここで閑話休題。
ヘテロシグマとシャトネラを混合して培養すると、ヘテロシグマは増殖するのですが、シャトネラの増殖は抑制されます。この理由としては、すでに報告があるヘテロシグマが持つシャトネラに対するアレロパシー効果、あるいは、ヘテロシグマがシャトネラよりも、栄養塩などの取り込み効率が高いため、競争力の低さからシャトネラ増殖が抑制されるという可能性があります。これまでの知見では、この、アレロパシー効果が赤潮原因藻優占のメカニズムであると考えられていました。
で、話をバクテリアに戻します。ヘテロシグマとシャトネラの混合培養系に、YF1を加えると、 YF1 がない場合に比べて、ヘテロシグマの増殖は促進されますが、シャトネラの増殖は顕著に抑えられます。ヘテロシグマの増殖『だけ』が YF1によって促進され、さらにヘテロシグマはシャトネラ増殖を抑制するから、ですね。
ここで、ヘテロシグマの増殖が早くなり、さらに最高細胞密度が上昇する一方で、シャトネラの増殖が抑制されるとどうなるか、というと、結果としては、培養系に対するヘテロシグマの割合が大幅に上昇する一方でシャトネラの割合は低く抑えられるということになります。つまり、YF1によりヘテロシグマの優占性がさらに強化されるわけです。
以上の結果は、ある種の赤潮原因藻に対して特異的に増殖を促進するような細菌が、赤潮形成過程に見られる赤潮原因藻の一種に限局した急激な増殖と優占の原因である可能性を示唆すると考えています。
単純な発想と実験の組み合わせながら、面白いことが言えたと思っているのですが、これがなかなか受理されなかったのは、一つには、バクテリア研究に経験が浅く、赤潮原因藻とバクテリアという組み合わせで研究した結果を、微生物屋さんにアピールする力が足りなかったため、という反省をしています。できればより広い読者層を持つ環境微生物学の雑誌に載せたいと思っていたのですが、赤潮専門の雑誌に掲載が決まりました。
近年の技術の進歩により、現在の微生物学では、まずはバクテリアゲノムの遺伝子配列をを読んで、そこから分子レベルの研究に切り込む、ということが可能です。私たちの結果のように、まずは、種の競合と共存を細胞数を数えるという素朴な方法で示した結果だと、面白くはあるけど、もっといろいろやってみたら?と言われてしまうわけで。
というわけで、この仕事の続きは、ヘテロシグマとAltererythrobacter ishigakiensis YF1株の共生メカニズムを分子レベルで読み解くこと。その準備を進めています。
この記事は、ブラジルの次に訪ねたチリで書きました。ブラジルも遠い国ですが、チリはもっと馴染みがない気分・・・・今回の出張の機会を与えてくださった共同研究者に感謝です。ブラジルではポルトガル語が話せたら、と思いましたが、チリではスペイン語が話せたら〜、とやはり切実に思いました。とはいえ、ブラジル人とチリ人がポルトガル語とスペイン語でおしゃべりすると、大概問題なく通じるのだそうです。どっちかから身に付けたいな、と、思ってしまいますね。
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