今回は、Frontiers in Microbiologyで公表した論文、"Evolution and Phylogeny of Large DNA Viruses, Mimiviridae and Phycodnaviridae Including Newly Characterized Heterosigma akashiwo Virus"についてです。
ヘテロシグマに感染するウイルスの一つとして、二本鎖DNAをゲノムとして持つHeterosigma akashiwo virus(HaV)というウイルスが存在します。20年以上前に単離されているウイルスなのですが、この配列は決定されていませんでした。理由の一つとして、そのサイズが大きかったことが挙げられます。私たちは、大きさ275 kbpというゲノムサイズを持つ、このウイルスの全長配列を決定しました(こちらはGenome Annoucementsで発表済み)。この論文では、その配列を解析し、他の大型二本鎖DNAウイルスと比較して、系統分類学的・進化学的にいって、HaVがどのあたりに位置するのかを示しました。
ウイルス、というものは、英語では‘organisms at the edge of life’とも表現される、いわば『半生命体』といえます。多くはせいぜい10個程度の遺伝子を有し(つまりゲノムも小さい)、それらの因子を駆使して宿主細胞に働きかけ、ウイルス自身の増殖を可能にしています。宿主なしには増殖できない『物質』であることから、生物、とは言えないわけです。
細胞のような複雑な構造も持たず、大きさも小さく、遺伝子数も少ない。
というのが、ウイルスの特徴として受け入れられてきたわけですが、近年、大型ウイルス、といわれるものが数多く同定されるようになってきました。これら大型ウイルスの特徴としては、ゲノムが大型であること(つまり、コードしている遺伝子数も多い)、時にウイルス粒子も大きいこと、が挙げられます。物によっては、これまでに同定されている細胞性生物よりも大きなウイルスが存在し、これまでの「ウイルス」という概念を揺るがすものとして注目を集めています。
HaVは、この大型二本鎖DNAウイルスの一つです。解析したところ、遺伝子数246個を持っています。Heterosigmaという藻類に感染することから、Phycodnavirus(Phyco = 藻類、dna = DNA)と呼ばれています。他にも、Phycodnavirusと認識されているウイルスは多数存在するのですが、しかし、この分類は本当に適切なのか??という疑問が呈されていました。
そもそも、『藻類』という分類自体が、水域に生息する光合成をする生物の総称。ヘテロシグマも、ノリも、コンブもみんな藻類です。かなり経験的というか、あまりにも生物としては異なる種を包括的に含んでいる分類。で、それらに感染する大きいDNAウイルスは、みんな 藻類DNAウイルス!ということになっているわけで、これはやっぱり変でしょう、という声が数多く上がっていました。
私たちは、この仕事で、HaVを含むPhycodnavirusと、Phycodnavirusに近いとされるMimivirusについて、配列の比較解析を行いました。その結果、Phycodnavirus+Mimivirusの分類を再定義するとともに、HaVがこれまでに単離・同定されてきたどのPhycodnavirusとも似ていない、ユニークな存在であることを明らかにしました。
私自身にとって、このような配列解析onlyの仕事は初めてで、公表されている論文を単に読むだけではさっぱり理解できなかったことが、この仕事を通してかなりすっきりとわかるようになりました。
HaVは、分類学的に見てユニークだということを示したわけですが、現在行っている感染過程の遺伝子発現解析を見ても、確かに他の大型二本鎖DNAウイルスには見られないユニークな点を見出したところです。配列解析の結果わかった特徴が、ウイルス感染過程の特徴と綺麗に結びつくかどうかを今後見ていきたいと思いっています。
突然ですが、南太平洋。チリでのサンプリング途中で見た景色です。 高台から眺める海岸線。壮大で、美しかったです。 |
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