最近、しみじみと考え直したことがあります。
実験のコストについて。
人生で初めて新しく研究グループを立ち上げる機会に恵まれた人は、研究費をとってくること&苦労して獲得した研究費をどう使うかの2点について、初めて真剣に思いを巡らせることになります(……勢い、このブログもそんな話ばかりで恐縮です)。
私自身は、初めて自分で研究資金を外部からいただいときに、ささやかな決心をしました。いわく、
『お金を節約するために、時間を犠牲にするのは(可能な限り)やめる』
研究資金が潤沢であれば、ほぼなんでも買える。時短キットも時短グッズも、人手も。外部委託して実験結果を買う、ということすらもできる。
でも、『何があっても買えないもの』が、ただ一つだけ、あります。
それは、『過ぎ去った』時間。これだけは、買い戻しがきかないですよね。
長らくポスドクをしながら、身にしみて学んだことでした。
逆に、研究費を節約するために時間を犠牲にするぐらいならば、研究費を使って買った時間を次の研究資金獲得に当てればよい。
新米PIには極端な決心ではあれど、後から考えれば正解だったと思います。下手の鉄砲も、撃ち続ければ少しずつあたるようになるのも、本当です。
というわけで、ほそぼそと予算獲得を続ける一方で、極めて順調に予算は消化、仕事の道具立てもそろって参りました。
で、ずっとこの路線でいこうかな、と思いかけていた頃に、とあるセミナーを聴きました。
ある若手研究者が、大型予算をとって、網羅的遺伝子解析をじゃんじゃんやろうと思ったけれど、その手の研究にかかるコストって、どうしたって高い。大型予算を持ってしても、できることには限りがある。
そこで、その人は、実験にかかるコストを、ご本人の表現を借りれば『爪に火をともす用にして』切り詰めるためのプロトコールを開発し、それによって一つ一つの実験のコストを数分の1にまで切り詰めたのだそうです。
何故かといえば、その『爪に火プロトコール』を使えば、同じお金で、数倍の解析ができる。よって、より多くのデータが得られ、より厚みのある知見が得られる。
…当たり前、といえば当たり前。しかし、『より多く使うために、より多く穫ってくる』と呪文のように心で唱え続けていた私にしてみれば、目から鱗、なお話でした。
そりゃそうだ。同じ穫ってきた研究費ならば、有効に使った方がいい。
『建設的にケチらなければ、できることもできなくなる』というあたり前のことに、やっとのことで気がついた...というよりも、やっとそういう気の回し方が意味を持つステージに達した、ということでしょうか。
現在、とにかく多数のRT-PCRをかける、という実験に明け暮れているのですが。
あれもやりたい、これもしたいと思えど、常にそれを制限してくれる忌々しいファクターは、実験のコスト。
PCR 8連チューブ一つでRT-PCRをかけるのに、何回分注が必要で=いくつのチップを使って、異なる反応サイズでどのぐらいの酵素を使うことになって…、と今まで【意識的に見逃す】ことにしていた、一回の実験のコストを計算すると、これは、確かに、ケチらないと!と危機感が。
とりあえず、破格キャンペーン商品を買い漁って、さらにスケールダウンの道を探っています。
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