これは、別にむずかしいことではまったくない・・・・のですが、それでもなかなかうまくいかないときって、あるものです。とりあえず、1か月間、やきもきと、ああでもない、こうでもない・・・と試行錯誤した後で、分子生物学屋さんに通じる言葉でいえば、「目的の遺伝子配列を汎用プラスミドにクローニングした」わけです。
平たく言えば、ある生物が持つ遺伝子から、自分がほしいと思っている部分を遺伝子工学的手法を用いて取り出して精製して、その遺伝子配列を今後は量的に増幅しやすい形で手元に永久保存できるようにした、といったところです。
テクニックを知っている人も、そうでない人も、ある生物の遺伝子配列が、完全に解読されている場合と、まったく解読されていない場合では、完全に解読されている場合のほうが、その遺伝子の部分断片を取ることが簡単である、といわれれば、納得しちゃいますよね。
わかっているものの方が、わかっていないものよりも、はるかに扱いやすい 。
そりゃそうだ。
近年の遺伝子工学的技術の驚くような進歩のおかげで、未知の遺伝子配列の解読は、30年前に比べると、一万分の一かそれ以下の時間・コストしかかからなくなりました。これまでに実に多くの生物の遺伝子配列が完全に解読されてきているのですが、私が今手を染めている生物の遺伝子配列については、いまだ解読されておりません。
実は、自分で解読中(最初の記事で書いた「新天地を地道に」開拓事業の一つです)。
ではあるのですが、研究のほかの部分は進めたいので、解読と、その解析が終わるまで単にぼんやりと待ってはいられない。いまだ『ブラックボックス』な遺伝子全長から、自分のほしいものをうまいこと釣り上げたいわけです。
遺伝子ブラックボックスからほしいものを取り出す、というテクニックはいくつかありますが、比較的安価で簡単にできる(はず)なのは、Polymerase chain reaction=PCRを用いた手法。これは、ある遺伝子配列の両側のほんの短い部分の配列だけがしっかりわかっていれば、配列が全く分からない内部配列ごと、量的に増幅して遺伝子を釣り上げるために利用できる、ありがたーい手法です。しかも、数時間しかかからない。必要な機器も、試薬の値段も(比較的)安い。
しかし、私の場合、ある遺伝子配列の『上流部分』を取ってきたかった。つまり、未知の遺伝子配列にくっついた片側の配列(下流の配列)しか知らない状態なわけです。こういう場合には、遺伝子配列のもう片方、つまり全然わからない上流の端っこに、自分で作った人工的な遺伝子配列をちょこっとくっつけてやって、その最上流の人工的な遺伝子配列(当然、既知)と、下流の、私が情報を持っている配列の情報をもとに、PCRを用いてわかる部分もわからない部分も量的に増幅して釣り上げる、ということができます。
遺伝子の電気泳動。遺伝子片が、その大きさによって、
アガロース=分子ふるいのなかで電圧をかけた時の移動
度が違うことを利用して、遺伝子片を大きさによって分ける
方法です。左から2番目、白く一本出ている『バンド』が
目的にしていた遺伝子断片。一番左のたくさんバンドが出
ているのは、DNAサイズマーカー、それぞれ既知の大きさ
のDNA片で、これと比べて自分の遺伝子断片の大きさを
推測できます。
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世界中のいろんなラボで一般的に使われていて、必要な試薬だのなんだのをセットにして、キットとして商業的に売られているような手法なのですが、誰にでもできる割に、トラブるときにはトラブるんです。今回は、1か月かかりました。
この、とってきた未知の遺伝子断片の配列を解析したら、片方には『下流の既知配列』が、もう片方(つまり、上流の一番端っこ)には、『自分で作った人工的な配列』が入っていて、真ん中にはよくわからない長い配列が入っている・・・・・、ということは、この、「真ん中のよくわからない長い配列」こそが、私がほしかったもののハズ!
ここ3回続けて、金曜日には、「・・・うう、今週も、ほしい配列が釣れてこなかった・・・・」と週末を迎えていたので、すっきりさわやか、うれしいです!
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