2013年2月8日金曜日

研究室いろいろ


  当研究グループは、2011年秋に開設された新しいグループなわけですが、今回は異なるタイプの研究グループについての話。

 伝統的に、日本の大学にある実験系の理系研究室は、教授・助教授・助手(現在は、助教授は准教授、助手は助教と呼ばれることが多いですね)、という、異なった階層に属する複数の教官がいて、そこに学部・大学院の学生さんがはいってきて・・・という形で成り立ってきました。ふつうは教授が一番年長で、助手が一番年下、当然研究の経験の長さからみても教授は一番影響力がある存在。一つのグループの中でヒエラルキーが存在したわけです。
 で、たとえば教授が退官されれば准教授が教授に、助教が准教授に昇格して、新しく助教を採用する、という形をとってきました。最近は、准教授が教授にスライドアップする、という例は少なくなり、退任した教授の代わりは一般公募で探す、というのが多くなってきています。

 世界的に見て、この仕組みはあまり一般的ではありません。例えば、米国・欧州・豪州加えてシンガポールなどの多くの大学や研究所は、大概、Assistant Professor、つまり日本語の助教として比較的若い研究者を採用し、一つの新しい研究室を立ち上げさせます。で、この人が、その後、所属する大学や研究機関が提示する基準をクリアするたびに准教授・教授に昇進していくわけですが、昇進しても、その人の「下」に助教が入ってくることはありません。つまり、最初から最後まで一人の人が中心になって研究室を運営することになります。こういう、研究室を中心になって運営する人のことを、よくPrincipal investigatorとか、略してPIと呼びます。

 一人のPIが研究室を運営するのと、数人の人間が一緒に研究室を運営する、いわば従来の「日本型」と、どっちがいいか?といえば、研究者の好みによりますね。私は、数人で運営するよりもPIになりたかったのでそちらを選びましたが、当然、これはもう、一長一短です。

まず、教授・準教授・助教がいる「日本型」研究室では、研究室の知的・物的資産が年を経て脈々と受け継がれることが多い。たとえば、前の教授が退官する前に購入した超低温冷凍庫を今でも使っている、とか、この遺伝子は、前の教授が退官する前に、その人と一緒に研究していた大学院生がクローニングした遺伝子の面白い機能がわかったから、それを今でも代替わりした現教授が研究している、とか。研究の物的・知的資産が『世代』を経て受け継がれていくわけです。また、現在のことだけ見ても、複数の教官が一つのグループに属する場合、それぞれの研究テーマが多少異なっていても、試薬や機材を共有したり、情報交換を日常的にすることが可能。これは、とっても効率的ですよね。
 もちろん、マイナスもあり得て、いろいろな人がいて歴史が長い分、不要な歴史的遺物が蓄積しがち・・・・。責任の所在の明らかでないサンプルが超低温冷凍庫にいっぱい詰まっていて、いらないものばっかり出てくる、とか、気が付いてみたら、古くて使いもしない研究機器で部屋が埋め尽くされている、とか。それ以外にも、教官の間での人間関係のややこしさとか、これは、もう、個々の研究室によってお家事情がいろいろでしょう。

 これに対して、一人のPIが研究室を運営する場合には、ほとんどの場合、その人が着任するときには、空っぽの部屋と、多寡に差はあれどある程度の予算(スタートアップ)が用意され、着任したPIは自分の好みで研究室としてデザインしていくことになります。
 これだと、上記のような、責任の所在が明らかでないサンプルで冷凍庫が埋め尽くされる、というような事態にはつながるまでに、かなりの時間がかかります。そうなりかけても、解消するのが簡単、だって、一人の人間(だけ)が研究室の創成期から一貫しているわけで。教官の間の人間関係はややこしくなりようもない、だって、一人しかいないから(運営者であるPIが異常な人だと、それ以外のメンバーには致命的ですが・・・・・)。いろんな意味で、すっきりシンプルです。
 当然、マイナス面も。研究室・研究グループ、というのは、存在するだけで一定の手間がかかります。たとえば、研究所全体で対処すべき事柄に関する会議などがある場合、グループ代表がひとり出席すればよい、ということはままありますが、PI制であれば、PIは必ず会議に出席しなければならず、その分時間がとられます。これが、教授・准教授・助教の3人組ならば、(理屈で言えば)3分の1の負担ですむはずなのになぁ・・・・。研究自体にかかわってくることとして深刻なのは、研究についてある程度以上の知識を持っている人間が部屋に一人、ということは、研究についての突っ込んだ話し合いができにくい。早い話が、PIは孤独。そして、たぶん一番問題なのは、一人しかいないPIがある年研究予算を取り損ねたら、そのグループは一年間は決定的におカネがない!ということに。日本型ラボの3人組だったら、いつもの3分の2の予算でやりくり…ぐらいで済むところを、文無しになるのはキツイ、ですよね。
 ただ、PI制をとっている研究室は、小回りが利きやすい、という利点はあります。PIがしっかりした人ならば、働きやすいラボを作りやすい。私自身は、PI制で成り立っていた米国での下積み時代がなが~~いわけで(私めの履歴についてはこちら)、上のヒト=PIがやらなければならないこと、やっていいこととそうでないこと、というのは、その下で働くヒト、として身を持ってしっかりねっちり経験させていただきました。というわけで、晴れて自分がPIになった今、働きやすいラボを作るためのノウハウは、ばっちり身についてきた・・・・ハズ。

 で、こちらに着任後、新ラボ立ち上げに張り切って取り掛かったわけですが、ここに立ちはだかる最初の壁が・・・・・。というわけで、また来週。

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