2017年4月14日金曜日

研究報告4:ヘテロシグマのミトコンドリア上にある水域特異的配列について

 今回は、2報まとめてご報告させていただきます。先日ご報告した、2日続けて受理された論文たちです。

A hypervariable mitochondrial protein coding sequence associated with geographical origin in a cosmopolitan bloom-forming alga, Heterosigma akashiwo

A unique, highly variable mitochondrial gene with coding capacity of Heterosigma akashiwo, class Raphidophyceae

 これは、以前解読したヘテロシグマのミトコンドリアゲノム全長配列を詳しく解析してみたわかった話です。
 自分たちで解読した4株と、すでにNCBI GenBankに登録されている3株合わせると、日本沿海から得られた株5株、北米から得られた株2株のミトコンドリアゲノムの完全長の情報が得られていました。で、これらそれぞれにコードされている遺伝子を予測してみると、ほぼすべての遺伝子が、同じ配置で存在します。で、それぞれの遺伝子配列を比較してみると、当然ながらよく似ている。。。。のですが、例外的な遺伝子もありました。
 他はほぼ100%一致するのに、なぜかこの遺伝子は非常にバリエーションがある。
 というわけで、この遺伝子は、mitochondrial Open Reading Frame with variationsの意味で、mtORFvarと名付けました。
 バリエーションに富んでいる、とは言いながらも、実際は、北米産ヘテロシグマ2株は非常によく似ている。そして、日本産同士を比較しても、結構よく似ている。
 となると、これは、ヘテロシグマ株が取られた海域と相関している配列だったりして?と思いつき、海外の藻類株を保有しているセンター(過去のヘテロシグマの研究の過程で単離された「株」が世界各地のセンターに寄託されているのです。)から、合計20株近くを入手して、それらのmtORFvar配列を解読して、比較してみました。

 すると、結構綺麗にヘテロシグマ株産海域と配列が対応します。
 たとえば、大西洋北緯40度以上の水域からとれた株と太平洋北緯40度以上の水域からとれた株は、それぞれに固有のmtORFvar配列を持つ。北米の東西海岸でも、北緯北緯40度より低緯度でとれたものを比べてもやはり違う。日本沿海からとれた株のmtORFvar配列と、北米産のものはかなり違う、などなど。
 mtORFvar配列の地域特異性に加えて、たとえば、ある1地点からとれた2株の配列を見たときに、一株は北米東海岸高緯度型、もう一株は北米東海岸低緯度型、という違うタイプが例外的に混じって見られるところもある。つまり、ひょっとしたら、もともとは、実は違う水域に由来しているのが、何らかの原因で長距離輸送されて同じ海域に混じって生息しているのだったりして?!などと思える結果もあったわけです。

 Biology Lettersに掲載された論文が、私たちの研究の順序としては一本目の論文に当たるのですが、その後、さらにブラジルはRio de Janeiroで確立された株や、シンガポールから入手した株のmtORFvar配列を解析し、これら「熱帯株」も加えて解析した結果をJorunal of Applied Phycologyの論文で発表しています。熱帯株と、日本沿海株は、かなりよく似ていて、見分けがつきませんでした。また、日本各地でとれた株合計30株以上についてmtORFvarを解読してみたところ、確かにバリエーションは見られるのですが、しかし、配列と産水域の相関は見られない。つまり、水域の間の距離がせいぜい数百キロ程度では、mtORFvarを由来水域マーカーとして利用することはできないようです。

 そもそも、ヘテロシグマは、温帯浅海域に広く生息する種類だとされてきたのですが、近年の論文では、熱帯や寒帯からも見出されています。もちろん、以前よりも広く網羅的なモニタリングが徹底したから、数少なく生息していたヘテロシグマが見出されるようになってきた、というのが理由かもしれません。一方で、以前はヘテロシグマによる赤潮なんて報告されていない水域で、今年初めてヘテロシグマ赤潮が起こりました、というような報告もあり。
 近年の気候変動は、海流の変化や、場所によっては水温の継続的な上昇を引き起こしてもおり、また、大型船舶が航行する際に組み上げては排出するバラスト水は、水域の微細藻類もろとも海水を大量に汲み上げて、人為的に移動させる結果になり得ます。このような、自然環境変動+人為的長距離輸送が、ひょっとして微細藻類や細菌などの世界的な分布に影響していたりして、という仮説は長らく提唱されていますが、このような仮説の検証にmtORFvarが役に立ったりして、などと考えています。

 面白いことに、これだけ超可変な配列であるにもかかわらず、mtORFvarは、何か機能性のタンパク質をコードする遺伝子らしく、転写物もみられます。データベース上の既知タンパク質と配列を比較しても、相同性が見られる部位がなく、いったいどんな機能を持っているタンパク質なのか。特に、緯度40度以上・未満産の株の間で、配列の差が大きいことから、緯度の違いから生ずる環境の差・・・・水温?日照時間?・・・などに適応するために必要な因子だったりして、などと楽しく夢想しております。何か仮説を立てて、検証するのが次のユメの一つ、です。

 
 

0 件のコメント:

コメントを投稿