2015年9月18日金曜日

そういえば、の思い出話。

 唐突に、17, 8年前の話になります。
 自分史上では学位を取って、学振研究員になったばかりのころのこと。

 Gordon Conferenceに参加しました。当然ながら、ポスター発表でですが、実際に会場に行ってみると、論文でいつも見ている名前の大先生が、あの人もこの人も。
その時の印象は、
 『実在の人物だったんだ〜〜〜!!』
 いや、活字の綴りで知っていただけの有名人が、目の前にいてくれると感動します。 

 ボストンの郊外といい条、山の中の、実はかなりエリート家庭の子弟ばかりを集めた全寮制高校が会場で、夏休みの寄宿舎を宿泊所として4泊だか、大変トピックをしぼった学会です。缶詰状態で、しかし飽きること無く、朝8時半から夜中は12時まで、その分野での主立った研究者の話をたっぷり聞いて、ポスター発表、しかし、昼間はお昼ご飯後3時間ぐらい休みが入り、その時間はソフトボールしたりピクニックしたり。

 これは興奮する経験でした。だって、論文で名前をいつもいつも見ている大御所が目の前にいて、こちらのポスター発表を見に見えて、直に話しちゃったりする訳で。でも、みんなで遊ぶし。で、その間中おしゃべりのトピックは、研究から離れない。スーツを着て出席する人が多かった、日本の大きめの学会しか経験が無かった私としては、まさにカルチャーショック。目の色が変わりました。

 数日ある学会で、最新の情報を得た、ということより、その場の空気を吸い続けた、ということが一番大きなお土産だったわけですが、たしか、学会もあと1日残した夜ぐらいのこと。
 遅れて参加したある大先生と、最初からいた大先生が、会場の隅っこで挨拶を交わしているところに通りかかりました。

 Hi, XXX, how are you doing?
 に対する答えが
 Oh, I am doing great.  (...大きいグラントがとれたの、論文がCNSのどれかに通ったのの話が続く.....)

 ちょうどそのころ、日本では、大学の独法化や、教官の任期制導入の話がでてきたころ。
 実際、ポスドク1万人計画だの、多くの特任教職員の発生だの、現在の大学や日本の研究環境に繋がる話がその後実現し、現在に至った訳ですが。
 大学にいると、指導教官その他から聞く話は、空を黒い雲が覆い始めて悪天候の予感…をさそうトピックばかりの頃の話です。学会誌のコラムで『大学教員は雑用は多いし、予算は少ないし、給料は高くないし、若手には自由はないし、しかもどんどん悪くなるし、嗚呼!』みたい匿名の愚痴記事があちらにもこちらにも見られた時期でもあったのですが。

 えー、世の中そんなもん?でもさー、大学で教官なんて、好きだから面白いからやるもんじゃん。そこまで文句たれる?そりゃ、理由があるんだろうけどさー。。。学生上がりになんかにはわからない苦労だよっていわれそうだけどさー。。ぶつぶつ。

 と思いつつも、暗く低く頭上にたれ込める雲?天井?を感じていたそのころの私としては、I am doing great.と、大御所がふつーにいえることに衝撃を受けた。

 そうか、米国って、そもそも大学で基礎研究している人が楽しくやれるところなんだ。
 そして、楽しくやっていることを口に出していいんだ。

 その思いに、大げさでなく、一瞬で頭の上の低い天井がぱかっと開いて、青空が見える気がしたのを思い出します。
 振り返ってみれば、そもそも腰を据えて長い期間留学したくなったのも、そのまま向こうに居着きたくなったのも、結局は、このI am doing great.由来。

 米国の日常では、ただの挨拶言葉、でもあるのですが、しかし、これが言える土壌というのはいいものだと今でも思うし、土壌がどこでもこれを言いたい、という気持ちが今でもあり。
 20年近くたった今でも、『これとこれができたら、I am doing greatっていえるんだけどな』とか、『今、一瞬だけ、I am doing greatって感じ!』とか、自分のなかのキーフレーズになってしまっています。

 


 

 
 

 

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