2014年3月21日金曜日

残念な話

 ***以下の文章は、2014年3月20日午後6時現在の知識に基づいて書いたものです。***

 クリーンヒットだ!!!と思ったのに。

 心躍る発表からわずか2月足らず。捏造・剽窃のうわさも、最初は、同業者の妬み?かな??などと思っていたのですが。

 いろいろな報道がなされて、ことが見えにくくなっているきらいはありますが、STAP幹細胞『論文』についての現時点での一番大きな問題点をまとめると、こうなると思います。
  • 主要データが、数年前の別の実験の結果として得られた写真から流用された。
  •  取り違えという可能性が主張されているとはいえ、一枚の画像が今回問題になっている論文と、別論文に別の実験の結果として掲載されていた=どちらかの結果として提示されているものは、悪意の有無にかかわらず『虚偽の報告』
論文というのは、ある事象を証明したとして発表されるもの。
 論文に示されるデータは、筆者と査読者双方が、『これこれの結論をだしたければ、これとこれとこのデータは必要不可欠』とみなしたものです。たとえば、図表が10枚ある論文が、一枚減って9枚になってしまったら査読は通らない=論証いたらなかったとみなされる可能性が極めて高い。
 論証の際に必要とされた主要データが、論証されるために行われた実験の結果ではなかった(=捏造だった)ということは、『STAP細胞の存在を論証するために必要な証拠が存在しなかった』ことになってしまう。

 『悪意を持って』捏造したか否かの証拠の有無が問題の本質ではない。
 捏造には当たらないとはいえ、極めて望ましくない改ざんの形跡も見られる(理研調査委による表現)ことも、論文の一部分が、他人の論文からのコピペ(剽窃)であるということも、一番の問題点ではない。
 今となっては再現性が取れない、ということが一番の問題なわけでもない。

 今、問題なのは、
 『発表された論文の問題部分を取り去り、しかもすぐさま訂正に使えるデータが存在しないということは、そもそもの命題(STAP細胞という存在)を正しいとする充分な科学的根拠が存在しない』
 という点なわけです。
 3月20日現在で、Natureの論文から問題の図だけが抜かれた形で、公共データベース(NCBI PubMed)に残っているとのことですが、それを読んで情報源にしたほうはたまったものではありません。さすがに、ここまで話が大きくなると、この分野の人はこの論文が問題あり、と知っているでしょうけれど。原理原則に鑑みて、この状態は異常。

 じゃんけんでの『あとだし』はインチキですが、論文の場合、データを『あと抜き』して、でも論文の内容は信じてね、というのは、当然無理。限られた期間でも、このままで放置することが良いことなわけがない。 

 個人のバッシングは全く必要ないですが(しても何も出ませんし)、筆頭著者と、(調査に乗り出したからには)所属研究機関は、論文の問題部分を早急に正しいデータと差し替える義務があります。可及的速やかに徹底的に調査して、経緯はごまかしなく発表してほしいと思います。

 とはいえ、STAP細胞についての疑惑が濃くなってくるにつれて出てきた、筆頭著者の博士論文剽窃についての話は、違う問題として考える必要が。

 剽窃だって、もちろんいけない。(博士論文中のデータとして出された写真がどこかの試薬会社の宣伝写真のコピーだったのは、これはデータ捏造。画像剽窃とはいえない。)

 でも、文章の大きな部分の剽窃については、指導教官・論文の審査官は何をしていたんだ?こちらの方が大きな問題だと感じます。
 私も大学の教官なわけで、この教育と審査に携わる側の人間。あらためて責任の重大さを感じます。

 ところで、最後に。

 そもそも、この話が、研究者の間にとどまらず、これだけ大きな社会の話題になった決定要因としては、筆頭著者についての初期報道が挙げられると思います。これは、報道をセットアップした側(つまり、筆頭著者の所属機関と本人)と報道陣の両方が与しています。

 リケジョって・・・・・。

 なぜ、音として綺麗でも情報量が多いわけでもない略称を、みんなが使いたがるんでしょう。
 筆頭著者が女性だということにあれだけウェイトがおかれるのは頂けないし、論点を取り違えている。

 科学、とは、もともと論理的思考と事実の積み重ねによって成り立つ、硬質なもの。
 研究対象に対する強い思い入れと執着という、実に人間的な(しかし性別とは関係がない)要因を除いては『誰がやっても同じ結果が出る=再現性』『誰がやろうが結果が一番大事』という程度はおさえておきたいものです。

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