2013年9月20日金曜日

(ひさしぶりに)本業バナシ 赤潮はなぜ起こる?

 読み返してみると、どうも、ここ2ヶ月ぐらいの記事は、「研究者あれこれ」的な話ばかりですね。どこに行って誰と会ったとか、どんな話をしたとか。
 夏は、学会なども多く、人と会う季節ではあるのですが、別にほっつき歩き回っていたばかりではなくて、その間に研究も進めております。大学という場所での非営利目的の研究とはいえ、新規性の高い研究を行っている以上、あんまりリアルタイムに細かいところまで書くわけにはいかないので、日々の実験についてここに書き込めないのが、苦しいところではあります。

 というわけで、久しぶりに、研究そのものの話。
 
 
 
 ヘテロシグマは、鞭毛を持つ単細胞藻で、長径10ミクロンぐらい。海中をふるふる泳ぎながら光合成で必要なエネルギーを作り出して生きています。赤潮、の名のとおり、細胞は褐色をしていますが、これはカロチノイドのせい。葉緑体を持っていて、いわば要領体を保護する成分として橙色のカロチンを持っているので、緑ではなくて、褐色に見えるんですね。
 いつもは、海水中に存在する様々なプランクトンのほんの一部を占めるに過ぎないのですが、水温が上がったり、汽水域で塩強度が変化したり、海域が汚染されて富栄養化が進んだり・・・・・・いくつかの条件が重なると、いきなり大増殖。普段は青い水がいきなり茶色くなるぐらいまで一気に増殖して、これがヘテロシグマ赤潮として観察されるわけです。

 顕微鏡で視認可能なヘテロシグマが、航空写真でばっちり見えるぐらいの集合体を自然界で形成するわけで、考えてみればこれってすごい話です。

 野生のヘテロシグマ(って、変ですが)は、海で生きているわけで、当然、日々温度も変化するし、波も立つし、捕食者だっているでしょう。そういう状態で、数日のうちに1000倍程度にまで増える!・・・・・・・・だったら、ヘテロシグマを実験室に持ってきて、捕食者も波もなく、栄養を充分与えて大切に飼ってやれば、そのぐらいの増殖が観察される、はず。

 
 なのですが、面白いことに、実験室でかっても、ヘテロシグマはそこまで増えない。例えば温度を上げてみたり、栄養塩を添加してみたり、光の強度を変えてみたり、ここ20年ぐらいの間にいろんなことがやられているのですが、しかし、一晩に7,8倍まで増えたりする『赤潮形成期』に見られるような増殖は、実験室では再現されていないのです。

 実験室で再現できない、というのは、逆に言えば、赤潮発生の『決定的要因』は、わかっていないわけです。なにか、私たちが思っても見ないような理由で、赤潮が発生する。
 しかも、ヘテロシグマ赤潮の場合、とってきたサンプルを顕微鏡観察すると、ほとんどがヘテロシグマなのだそうです。特に光合成をする藻類だったら、例えば温度を上げてみたり、栄養塩を添加してみたり、光の強度を変えてみたり・・・・・といった条件にいたら、同じ速さで、とは行かなくても、やっぱり多少増えるのは早くなりそう。だったら、取ってきた赤潮の、たとえば20%ぐらいほかの藻類が混じっていてもよさそうなのに、何でヘテロシグマばっかり増えるんだ?逆に、ヘテロシグマもいる海域なのに、ヘテロシグマはさておいて他の珪藻などがどっと増えることもあるのだそうで。
 これって、ヘテロシグマにピンポイントで効いて、しかし他の藻には効き目がない、何かしらの『誘導因子』がある、ということ、のように思えます。同時に、ヘテロシグマが、他の藻類を排除する因子を放出している、ということは実証されています。アレロパシーっていうやつですね。とはいえ、やっぱり、どうやったら増え始めるのかは謎のまま。

 赤潮って、瀬戸内海のいくつかの海域では、夏の間に3回ぐらいは発生する、きわめてフツーに見られる『ありがたくない夏の風物詩』、なわけですが、それだけみんなが知っている割に、発生の原因は未だ謎のまま。・・・・・・・これって、なかなかそそってくれるトピックですよね。

 そして、私たち、実は最近この増殖の理由の一端、それも結構重要な一端を見つけてしまった気がしています。うっふっふ。
 というわけで、これからしばらく取り組む研究のひとつは、これ。
 『赤潮発生』の謎を解く、です。
 

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