2013年5月24日金曜日

やってみるまでわからなかった!

 なんでも、自分が手を染めてみて初めて分かること、というのがあります。

 最近つくづく感じいることが多いのが、初めて触る生物を使って仕事をするむずかしさ・面白さ。

 私は、大学院生時代は哺乳類の培養細胞系を、その後ポスドクとして植物を使いはじめてからはモデル植物であるシロイヌナズナと、ゲノムこそ読まれていないものの、たくさんの人が使っているタバコとベンサミアナという植物を使って研究してきました。
 培養細胞は、もともとは哺乳類の組織からとってきて、さまざまな経緯で『不死化』『株化』された細胞がほとんど。培養するには、市販の培地を使い、決まった条件で世話をし続ければ、まず間違いなくちゃんと生育します。重要なのは、培養細胞として株化されたものであれば、シャーレに生えている細胞はまずその一種類とわかっていること。自分で間違いを起こさない限り、知らないものが混じっていた…というようなことは、まぁ、ありません。その単純明快さゆえに、世界中の研究室で使われているわけですよね。
 シロイヌナズナも、タバコも同じ。これは種子として保存して、それを発芽させて育てて実験するわけで、自分が取り組んでいるのはその植物自身と確信をもって実験しているわけです。

 なんていうことをいまさらながら考えるのは、ヘテロシグマという、分子生物学者がこれまで触ったことがほとんどない生物を相手にしていたから。一年以上世話していて、最近「共生微生物」の重要性に気が付いてしまいました。
 そもそも、私が1年以上前にほかの研究所から分けて戴いたヘテロシグマは、もう20年近く前に採取した海水から単離されたものを、実験室で培養していたもの。ヘテロシグマに「共生微生物」がいる、という話は知られてはいるのですが、一応、これを取り除いたということになっている株をいただいてきたのです。その後、滅菌した人工海水を用いて培養しているわけですし、実験室に持ち込んで、『無菌的』に継代してきたものなワケですし、私の認識では、これは、『確立された純正株』。「ヘテロシグマ培養液」の中にいるのは、自分が何かを混ぜてしまわない限り、ヘテロシグマだけだろう、と思ってしまうのが、私のように『確立された実験生物』を使って仕事をした経験しかもたない者の習性です。

 しかししかし。
 最近、同じ研究所の微生物を専門とする研究者にいろいろ教えてもらってわかってきたこと。
私がもらってきた、「純粋なヘテロシグマ」は、全然純粋ではありませんでした。どうもいくつかの共生微生物がいるようなのです。これらは思っていたよりもはるかに緊密な共生関係をヘテロシグマと結び、相当強引な操作をして無理やりひっぺがさないかぎり、ヘテロシグマあるところにこれらの微生物アリ。
 しかも、これらの共生微生物は、ヘテロシグマの増殖を助けたり邪魔したり、いろんなことをしている気配が・・・・・。

 となると、やはり、「すべての共生微生物を洗い流した純粋なヘテロシグマ」がほしくなります。
 というわけで、最近は、この、純粋ヘテロシグマの確立=共生微生物を無理やり引っぺがすための操作に力を入れています。

 そして、当然、ヘテロシグマにくっついている方のこれら共生微生物だって単離したい。
 でも、そもそも、『純粋培養』系しか相手にしたことのない私が、いきなりなんだかわからない微生物を単離したい、とおもっても、どこから手をつけていいかわかりません。
 というわけで、自分のラボで育てたヘテロシグマも持って階下のグループに助けを求めにいきました。微生物のエキスパートの彼らにいろいろ教えていただいて、これまで考えても見なかった方向に仕事が展開していっています。デキる同僚・グループがすぐそこにいてくれて、親切にいろいろ教えてもらえるのは、なににもましてとありがたいことです。

 それにしても。
 こういうことがわかると、今度は、これまでに発表されているヘテロシグマに関する研究結果すべてについて、「これは純粋なヘテロシグマの生態なのか、はたまた共生菌といっしょにいる場合の生態なのか」という疑問が生まれてきます。
 たとえば、私が興味を持っているヘテロシグマとウイルスの関係。いままで、「ヘテロシグマとウイルスの関係」を見ているつもりだったのが、実は「ヘテロシグマとウイルスと、いくつかの共生菌の関係の総和」をみていた、ということもありえるわけで。
 これまで読んで理解してきたと思っていたいろいろな論文も、注意深く再検討する必要がありそうです。

 

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