さえない見かけではあるけれど、葉っぱも茎も花もある陸上高等植物、ゲノムサイズが小さく、自家受粉で繁殖し、植物の生長が早い、など、実験科学者にとって大変都合の良い性質をたくさん持つことから、この植物は、植物分子生物学に一番頻度高く使われるモデル植物・・・・ちょうど、動物のマウスみたいな・・・・・・として使われているわけです。
私自身、この、シロイヌナズナや、タバコ(ゲノム配列こそ解読されていないが、実験植物として多用されている)等を使って研究をしてきたのですが、現在の職場の資源植物科学研究所に着任するのをきっかけに、ちょっと新しいことをやってみたくなりました。
で、目を付けたのが、藻類の一種、ヘテロシグマ。これまで、『ある種の植物プランクトン』と書いてきたのが、これ、単細胞で、光合成によってエネルギーを得る独立栄養藻です。つまり、形は違えど、これも植物。
なんでそれに目を付けたの?という話はとりあえずおいておいて、今日は、この生物を使った実験のいろいろについて。
ヘテロシグマの培養は、こんな風にしています。
赤い丸いふたのプラスチックのボトルは、動物細胞の培養によく使われる、培養フラスコ。ふたにぷつぷつと穴があいてるのは、通気のため。動物細胞でも、血球のような『浮遊細胞』を買うのに便利なもので、昔々、私が大学院生だったころによく使っていたのを思い出し、ヘテロシグマを飼うのにも使えないかと試してみたところ、調子がよかったのでつかっています。中に入っている『培養液』は、人工海水。早い話がいろいろなイオンなどが入っている塩水です。で、一日12時間白色光に当てて育てています。
培養液がちょっと茶色っぽく見えますが、これが、ヘテロシグマの色。葉緑体は持っていますが、緑色ではなく、褐色をしています。藻類の培養は普通であれば振盪台の上で、ガシャガシャ振りながら・恒温で・光を当てながら行うものですが、ヘテロシグマは、酸素だの光だのを求めて自分で泳いでくれるので、振盪する必要はありません。培養液は人工海水、おいておくだけで増える、しかも増殖が早い、というあたり、安上がりで手がかからず大変気に入っております。
もやっとした褐色のわかめみたいなの
がヘテロシグマを集めたものです。
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これを解消するには・・・・・なんと、真水を加えて、海水を薄めればよい。真水を加えれば、『培養液』は2倍に薄められ、当然比重も小さくなります。水を加えても、細胞の比重は変わらないわけですから、落ちてきやすくなるというわけ。幸いなことに、ヘテロシグマは浸透圧の変化に強く、こんな荒業をかけても破裂したりしないのがエライところです。とはいえ、考えてみれば、遠心分離で細胞を集める、というのは、細胞を小さい体積に濃縮する、ということなのに、それをするには一度薄めるって・・・・・ヘンな話。
ただ、この方法だと、細胞同士がねとねととくっついて、細胞一つ一つを傷つけてしまっている気配が濃厚。そのまま新しい人工海水を加えれば、1日後には元気になっているのですが・・・・・。回収後すぐさま健康な細胞をたくさん使って実験したいこともゆくゆくはあると思うので、別の方法も試しているところです。
上の溶液をヘテロシグマごと液体窒素にすこし
ずつ注ぐと、こんな風に丸くなって凍りつきま
す。なんだか、天かすあげているみたいです。
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まるくころころしたものが、凍らせた人工
海水+ヘテロシグマ
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ステンレスのボウルに液体窒素をいれて、ヘテロシグマを懸濁した海水ごと、少しずつ振り入れて、細胞懸濁液をしずくとして凍らせる。透明の液体が液体窒素。ふつふつ煮えておりますが、なんと温度は‐196℃。海水とヘテロシグマの混合物を、煮えたぎる液体窒素の中で『ゆでる』と、あっという間に凍結してかたまりに・・・・。
結構うまくいきました。
というわけで、今度からこれで行こう。
なんだか、「こども科学館」的実験ばかり書きましたが、こういうこともへて、大発見!につながる・・・・ハズ。
次回は、もう少し「大人の科学」な、「ヘテロシグマからのウイルス抽出」についてお目にかけたいと思います。
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