2019年7月19日金曜日

乗船サンプリング

 ヘテロシグマ研究を始めて、始めて船に乗せていただいてのサプリングに行ってまいりました。
 兵庫県水産技術センターの赤潮調査船に同乗させていただき、半日がかりで播磨灘の8カ所を巡るという調査です。
 梅雨が長引いている今年ですが、当日は、良い天気。朝8時 50分に埠頭集合、というわけで、最寄駅から10分程度歩いて行くに、すでに暑い.....。乗船して、4、5時間程度、どんなことになるのか不安でした。
 幸いなことに、船はかなり新しい形のもので、船室には冷房付き。ほっ。

 今回は、初めての乗船で、「ブログに載せたいので写真とらせてください!」とは、ちょっといい出せませんでした 笑。

 各地点で、センサーを下ろして、異なる深さの塩度、水温、クロロフィル蛍光強度、pHなどの測定、また、決まった水深からの採水などが週に1回ずつ、近隣県と協調して行われているわけです。私は各地点から、少量ずつ海水をサンプリング。私の目的は、ヘテロシグマと生物学的な相互作用が見られる細菌の単離なのですが、上記のような環境データが伴った形でサンプリングできるのは、大変ありがたいことで、今回の調査に同行させていただきました。船の操作をされる方と、測定や採水を手がける方と、皆さん、各ポイントにつくと、さっと仕事にかかり、テキパキテキパキ。。。。。と各地点での作業は五分程度で終了。採水された海水は、フィルター濾過により濃縮して、含まれているプランクトンの数を当日中に数えて、他のデータとともに漁業操業者と共有するのだそうです。兵庫県ではないのですが、他県で、特に養殖が盛んな水域では、朝から調査に出て、データを全て得て共有するのは、お昼時、午後3時を過ぎて共有すると苦情が出るとのこと。赤潮が発生した場合に、対策として、養殖魚への給餌を止める(餌止め)のですが、その水域での1日の養殖魚餌代が数百万円に上るため、餌止めの必要がある場合には一刻も早く周知の必要があるのだそうです。
 こういう活動で、日本の水産業が守られているのですね。この仕事をしてなかったら知り得なかったことです。

 船酔いしたら困るな....というわけで、酔い止めを一応服用していったのですが、幸いなことに海は穏やかで、あまり揺れずに、その意味では無事。確かに、降りてからも妙に頭が重く、調子悪い気もしたのですが、あれは、船酔いの症状なのか、それとも薬の症状のなのかは、ハテナ、という程度で助かりました。

 海水を抱えて帰ってきて(持ち運べる程度とはいえ、流石に重かった)、いろいろと実験を仕掛けながら、さて、何が取れるか、楽しみです。

 ヘテロシグマ仕事を手がけ始めてそろそろ8年、実験室ベースの研究でわかることの限界が身にしみ始めています。少しでも、現場からサンプルを得る機会を増やして、研究の幅を広げたいと考えています。

2019年7月5日金曜日

研究報告:ヘテロシグマのミトコンドリアゲノム上の超可変領域に関する研究

さて、今回は、やっとの事で発表された論文の紹介です。

Phylogeographic characteristics of hypervariable regions in the mitochondrial genome of a cosmopolitan, bloom-forming raphidophyte, Heterosigma akashiwo.

 書くのに時間がかかったというよりも、むしろacceptされてからのeditorial processにやたらと時間がかかった気が。とはいえ、その手間のかけ方に良心的な雰囲気を感じるジャーナルでもありました。

 さて、内容です。
 私が偏愛している(?)ヘテロシグマ、学名Heterosigma akashiwoは、条件によって赤潮を形成する赤潮原因藻の一種です。ヘテロシグマは、以前は温帯にしか生息しないと考えられていましたが、ここ10数年の間に、寒帯から熱帯にわたる、世界中の浅海に生息することがわかってきました。
 ヘテロシグマのミトコンドリアは、ほぼ3万9千塩基対からなるゲノムを持っています。世界各地で見つかったヘテロシグマのミトコンドリアのゲノム配列を較べてみると、ほとんどの部分が全てのヘテロシグマで保存されているのに対して、3箇所だけ、非常に多様性に富んだ領域が存在することがわかりました。
 3箇所のうち、2箇所はタンパク質をコードする遺伝子であると考えられますが、このタンパク質はヘテロシグマ特有なもので、他の生物は持っていないようです。また、この二つのタンパク質は、よく似た配列を持っているため、似た機能を果たすものと考えられます。
 また、特に北半球の高緯度地域で見つかったヘテロシグマと、温帯〜熱帯で見つかったヘテロシグマが持つこれらの二つの遺伝子配列は明らかに異なることがわかりました。これらのタンパク質の機能はいまだに不明ですが、高緯度地方と低緯度地方の異なる環境――恐らくは水温や日照時間など――に適応するために必要な機能を持っているのではないかと考えています。

 実は、上で述べたタンパク質をコードする遺伝子二つのうち、一つについては、その配列多様性がヘテロシグマの”出身水域”に相関することを見つけて、すでに二本の論文として発表してあります。このタンパク質は、日本の株4株と北米高緯度地方産の株2株のミトコンドリア配列の全長を解読した際にその存在に気づき、mitochondria ゲノム上に存在するvariationに富んだOpen Reading Frame であることからMtORFvarと名付けて発表しました。

 その後、なぜ、今回になってさらに2箇所の多様性が高い領域が見つかったかというと、

1.  さらにヨーロッパ、北米低緯度地方、南米、シンガポール、ニュージーランドなどなどからいくつか選んだ株のミトコンドリア配列を比較したところで気がついた。

2. 以前は、ミトコンドリア上のORF配列を比較してMtORFvarに気がついたが、今回は、全ミトコンドリア配列の全長を比較して、初めて残り2箇所の多様性に気がついた。

 特に、2.については、私の解析のスキルが足りなかったから見つけられなかった感があり、恥じ入るところもなくはないですね。全長を比較して、各塩基の多様性を数値化して図示するという解析、そんなのあちこちに転がっているよね??と思いきや、適切なパッケージなどが手に入らず、結局は自分でスクリプトを書いて、最終的にはSupplemental Materialとして発表することになりました。解析のプロが見たら「拙いスクリプト!」と笑われるんじゃないのかなあ、と思いつつ、でも、もしも自分が書いたものがどこかでだれかに便利に使っていただけたら嬉しいんだけどな(おずおず)、と、いう気持ちもあり。

 相同性が高いふたつのORFは、最初に見つけたものをMtORFvar --> MtORFvar1と改め、ふたつ目をMtORFvar2とすることにして、発表しました。

 全長情報が増えたのが大きな要因とはいえ、シビアにいえば、以前の論文の解析が拙いのを、今回の論文でやり直したようなところがあり。一人でウジウジ悩んで書き上げたため、結局、人生初の単一著者論文となりました。 とはいえ、大学で研究をしながら、まるで個人の趣味のような研究成果の出し方は、やはり理想とはいえない。 

 去年から本学からの学生さんたちとしている仕事をまとめようとしながら、また、以前からの共同研究をまとめるためのスカイプ会議をしながら、やはり一緒に仕事ができる人がいるというのは、ありがたいな、としみじみ感謝を感じるとともに、こういう仕事の仕方を増やさなければ、と思います。